経蔵の屋根は苔に覆われており、かなりの水分を含んでいた。幸い、内部まで浸水していなかったが、やがて水の重みで梁などが折れてしまう危険な状態だったという。
本格的な修復費には拝観料などを充てる予定だった。もともと文化財を有する以上、こうした拝観料収入の一部は「有事の際に備えて」ストックしていた。しかし、新型コロナウイルスの影響で2020年以降、高野山全体の拝観者が急減、約50ある宿坊から外国の観光客は消えた。
宿坊のスタッフや若い僧侶にも少しづつ英会話を学んでもらおう、そんな矢先のコロナ禍だった。そこに台風被害が追い打ちをかけた。寺の維持のために必要な経費や従業員への給与支払いなどへの補てんもあり、修復のための資金が捻出できなくなっていた。
国も関わる文化財である以上、屋根が破損したままの経蔵を放置することはできない。また修復にかかる費用について、国や和歌山県などから補助金は出るが、約半分は自己資金で賄わなければならない。そこで久利住職はCFに挑戦した。
「厳しんじゃないか?大丈夫か?」。はじめは周囲から不安視する声も多く聞かれた。支援を呼びかけていることを知っていても、気を遣い、あえてそのことに触れない知人もいた。
「達成するんだろうか」日々不安がよぎり、眠れない夜もあった。協力してくれた知人もいれば、「考えておく」と返答するにとどまる人もいた。CFそのものに対する理解が低かったのも事実だった。
しかし2021年10月から約2か月で、全国の433人から計約2200万円が寄せられた(2021年11月30日達成)。当初の目標額、800万円を大きく上回り、その後も支援を直接申し出る人も相次ぎ、計約650人が支援の輪に加わった。CFの拡散性の高さはPR効果をもたらしてくれる。
そして屋根の葺き替えのほか、経蔵の周囲の杉の一部を伐採し、その木材を加工して新たに回廊を設ける環境も整備できた。
■「クラウドファンディング」は『想いのお金』
2011年、日本初のクラウドファンディングサービス「READYFOR(レディーフォー・東京都千代田区)」が誕生、運営を始めた。これまで医療・福祉、教育、文化・芸術、スポーツなど数多くのプロジェクトをサポートし、文化・芸術分野では100件以上の神社仏閣によるプロジェクトを成功に導いている。特に今年(2022年)は、長期化するロシアによる軍事侵攻にともなう、ウクライナへの緊急支援に多くのプロジェクトが立ち上がった。
READYFORによると、金剛三昧院が達成した2200万円という支援金額は、これまでREADYFORで公開してきたプロジェクトの中でも規模が大きいという。
廣安ゆきみ・文化部門長は、こうしたCFでの寄付方法を『想いのお金』と表現する。そして、「長期化するコロナ禍で、日本国内でも寄付文化が根づきつつあり、文化財の修復や修繕にかかわるクラウドファンディングの活用も年々増加している。また、長期的なファンの賛同を経て、クラウドファンディングによる寄付を財源の1つとするために、博物館、美術館、神社仏閣などで複数回クラウドファンディングを実施する動きも広がっている」と話す。
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◆世界遺産高野山 金剛三昧院
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◇クラウドファンディング・READYFOR
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