かつて神戸にあった日本で初めての私立美術館「川崎美術館」の名品が、およそ100年ぶりに神戸に里帰りする特別展「よみがえる川崎美術館 -川崎正蔵が守り伝えた美への招待- 」が、神戸市立博物館で開催されている。2022年12月4日(日)まで。
川崎美術館は、1890(明治23)年、神戸市布引=現在のJR新神戸駅周辺に開館した。創設者は川崎造船所(現在の川崎重工業株式会社)や神戸新聞社などを創業した川崎正蔵(1837~1912)。明治時代は西洋文化の流入が急速に進んでおり、古美術品の海外流出を憂えた川崎正蔵は、日本・東洋の美術品を幅広く収集した。それらを秘蔵せず公開しようと創設したのが川崎美術館で、そのコレクションは1000点とも2000点とも言われる。1年のうち一定期間のみ、招待状を受け取った人だけが訪れることができたというが、1924(大正13)年まで14回もの展覧会が開催されていたという。
しかし昭和初期の金融恐慌をきっかけにコレクションは散逸、美術館の建物も水害や戦災などにより失われたが、これまでにおよそ200点が国内外に残っていることがわかった。特別展では国宝2件、重要文化財5件、重要美術品4件を含む絵画、仏像、工芸品およそ80件と貴重な資料を合わせたおよそ110件が展示される。名品ぞろいの「川崎コレクション」がおよそ100年ぶりに神戸で「再会」する。
織田信長も所蔵した「寒山拾得図」(伝顔筆・重要文化財)は、川崎正蔵が最も愛蔵した、コレクションを代表する作品。また1902(明治35)年の明治天皇の神戸行幸の際に御用建てられ、「名誉の屏風」と呼ばれた5双の金地屏風のうち3双などが展示される。このうち「牧馬図屏風」(狩野孝信筆)は、海外から初の里帰りとなり、国内の展覧会では初公開となる。8曲1双の左隻には静かにたたずむ馬たち、右隻には躍動感あふれる馬たちが描かれており、制作からおよそ400年の時の流れを感じさせないほどきわめて良好な状態で保存されている。
さらに円山応挙の襖絵(ふすまえ)を立体的に並べ、川崎美術館の1階広間を再現する。また当時の出品リスト「陳列品目録」を手掛かりに、実際に飾られていたものを展示する。100年前の空間を体感できる。
神戸市立博物館の中山創太学芸員は「実業家としての川崎正蔵が取り上げられることはあったが、川崎美術館に焦点を当てるのは初めてではないか」と話す。
神戸市立博物館開館40周年記念特別展
「よみがえる川崎美術館-川崎正蔵が守り伝えた美への招待-」
2022年10月15日(土)~12月4日(日)
神戸市立博物館 (神戸市中央区京町24番地)
休館日:月曜日 *会期中、一部の作品は展示替えあり