「阪神間モダニズム」。これは、明治後期から大正、昭和戦前期(特に昭和15年=1940年頃)にかけて、大阪と兵庫県・神戸間(阪神間)のエリアで生まれた、近代的な芸術や文化、そして生活様式とその時代状況のこと。
中でも建造物に関しては、西洋の文化に大きく影響を受けた建築が今なお息づいている。阪急電鉄、阪神電鉄の開業・開通が大きなきっかけで、大阪の裕福な商売人たちが、便利になったこのエリアに別荘を建てたことに始まるようだ。
本来なら各地に残っていたはずが、1995年の阪神淡路大震災によってその多くが姿を消した。今回は、芦屋、西宮に残る名建築を紹介したい。
■ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)《芦屋市》
阪急芦屋川駅から北へ徒歩約10分の小高い丘の上に建っている。1974年には国の重要文化財に指定され、その後、1989年からは一般に公開されている。
近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライト氏によって設計された。ただ、完成を待たずにライト氏は帰国してしまい、その後、弟子たちを中心に建てられたそうだ。
いわゆる”豪邸”にもかかわらず、入口は小さく感じる。これは、入った瞬間に広さを感じるよう設計されているためとのこと。空間のふしぎな設計に、知らず知らずのうち中へ誘われていくのを感じる。たとえば、階段を上っているのに平面を移動しているような感覚や、左右対称に感じる部屋のつくりが実際はそうではないなど、空間の妙を醸すさまざまな工夫が施されている。
じつはこの建物、ライト氏の設計通りには建てられておらず、弟子たちがアレンジをしながら完成したのだそう。このことが、西洋建築と日本建築の融合の証となり、個性的な建物として受け継がれている。
■芦屋仏教会館《芦屋市》
ヨドコウ迎賓館の南、芦屋川沿いに「芦屋仏教会館」がある。見ためはまるでキリスト教の教会だ。1927年に竣工された鉄筋コンクリート4階建ての建物。2018年に国登録の有形文化財に指定されている。誰もが気兼ねなく集える道場として、丸紅商会社長(当時)の伊藤藤兵衛氏が私財を投じたうえ、多くの賛同を得て建てられた。
設計は当時、「奈良ホテル」(奈良市)や「大阪市中央公会堂」(大阪市中央区)などの設計を手がけた関西建築界の重鎮・片岡安氏。東洋風の手法を加味した近代式として、特に内部大講堂の正面にはインド風の手法を用いたとの記述が残っているそう。各所から東洋風、近代式、インド風というキーワードを感じることができる。2階には、蓮の花をモチーフにしたステンドグラスがあり、ふしぎな空間を演出している。
関東大震災の後ということもあり、当時すでに免振工法で設計・建築されていて、阪神淡路大震災の時も大きな被害はなかったという。今でも、仏教講演会をはじめ、文化教室、コンサートなどで利用されている。