劇作家・演出家の平田オリザさんがパーソナリティを務めるラジオ番組(ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』)に、「場とコトLAB」主宰の中脇健児さんが出演。地域活性を促すワークショップでファシリテーターを務めるかたわら、大阪芸術大学の芸術計画学科准教授、さらには京都市立芸術大学で大学院生として彫刻を学ぶなど、いくつもの顔を持つ中脇さんが、2週にわたって現在の『悩み』を吐露した。
14年間、伊丹市文化振興財団職員として、まちの活性化に関わる取り組みを続けてきた中脇さん。音楽でまちとつながる『伊丹オトラク』や、伊丹市の地域資源である酒蔵や昆虫館を生かし、虫の音と秋を愛でるイベント『鳴く虫と郷町』など、住民や飲食店、公共施設を巻きこんだプロジェクトを数多く手がけ、いずれも伊丹のまちを彩る恒例行事となっている。
より活動の場を広げたいという思いから、「その場にいる人と、その場だからできるコトを考える」をモットーに、2012年に『場とコトLAB』を設立。「遊び心」をキーワードに、アート、コミュニティプログラム、地場産業支援、教育、福祉など活動は多岐にわたり、近年はファシリテーションやワークショップの専門科養成なども手がけている。
独立後も「まちづくり」という命題に取り組んでいる中脇さんだが、施設職員時代と独立後ではアプローチも変化した。コンテンツありきの文化施設では、そのコンテンツに“寄せていく”作業となるが、商店街の活性化プロジェクトはあくまで住民主体。使う人々の声を拾い、みんなの「得意」が生かされる場を編み出していく。
そんななか、アーティストであり、兵庫県豊岡市に移住し大学学長として地域と関わる平田さんの活動は中脇さんにとって興味深いものだった。
「『市民参画』『協働』を促す場で、演劇だからできることはあるのか?』という中脇さんの問いに、平田さんからは「演劇だからできること、というのはないですよ」と意外な回答が飛び出した。
「ただ、『僕だったらこういうことができる』というのはあります。そういう意味で、アートは独善的です。多層的な風通しがいい場をつくるために、アートを使ってもいいし使わなくてもいい。必須ではないけれど、相性がいいのも確かです。無難にやるならアーティストを入れないほうがいいのかもしれません(笑)」(平田さん)
移住における地域住民とのコミュニケーションについて問われると、「もともと公民館を借りて稽古するような劇団ではなく、駒場の自宅が稽古場でしたから、そのあたりは移住しても変わりませんでしたね」と平田さん。さらに、「駒場では2軒となりに理髪店があったんですけど、その理髪店以外の店を利用したのは15年で(海外公演時など)17回しかない。それは豊岡に来てからも同じで、いま近所には2軒の理髪店があるんですけど交互に利用しています。電気店は3店を順番に」と続け、平田さんの律儀な一面も垣間見えた。
これまでは広告代理店や地域コンサルティングが関わることも多かった「コミュニティデザイン」。しかし、これまでの手法では突破できないところもあると考える中脇さん。違うチャンネルを持つために、現在、大学院生として小山田徹氏に師事し、共有空間の創造について研究制作を行っている。コミュニティデザインの現場において、ミッションをどう乗り越えるか模索の日々だ。
大阪大学でコミュニケーション・デザインセンター教授として在籍していた平田さん。初期のころは、教員間でも「アートとデザインの違い」について随分議論されたという。「デザインはクライアントがいて、アートにはクライアントがいない。自発的に出てくるもの」としたうえで、コミュニティデザインの現場で起きる発注側の過度な要求にも言及した。