「戦」は2001年に続いて2回目。21年前の応募志総数は3万6097票と、約6分の1だった。まだまだ「今年の漢字」の認知度が低かった時代と言えるが、この年はアメリカ・同時多発テロ、不況によるリストラや高い失業率、デフレの加速と、2022年と似たような状況にみえる。一方でイチロー選手(当時シアトル・マリナーズ)がメジャーリーグ1年目で首位打者・新人王などタイトルを獲得した年だ。
ただ、今と違うのは、スマートフォンが登場する前の時代だった2001年、テレビメディアの映像そのものが票に結びついていたが、今は個人がSNSでさまざまな情報を発信する時代となり、価値観も多様化しているので、2001年の「戦」が全体の6.33%(2022年の「戦」は4.83%)だったことを鑑みれば、この20年あまりで人の感じ方や思いも多様化したととらえることもできる。
歴史は繰り返すというが、もう「戦」が選ばれるような年は今年限りであってほしい、と願う。例えば過去には「災」が2回あった(2004・2018年)。この地球で自然災害としっかりと向き合わねばならない。
「今年の漢字」は、特定のグループが恣意的に文字を選び出すものではなく、広く応募してもらうものだけに、その年の印象を皆さんが如実に、“生き証人”のように表している。
揮毫した清水寺・森清範貫主も「社会のマイナス面ばかりが目立つ時代だが、2023年は『整(ととのう)』『治(おさめる)』という漢字が上位を占める年になれば」と期待を寄せたが、コロナ禍に加えて、先行き不透明な経済…人々は日々の生活の中で戦っている。
興味深いのは、前回の「戦」(2001年)も今年の「戦」も、その前年はいずれも「金」。シドニー、東京五輪があり、日本勢の活躍がめざましかった。華々しさもあれば、悲しさや辛さもあるという連続性を、いつの時代も教えてくれているようだ。
戦争の恐ろしさを実感し、自分との戦いが続いた2022年。戦いは必ず終わりがある。来たる2023年、終焉を迎え、一筋の光が見えてくることを信じたい。
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京都・祇園の漢字ミュージアムで開かれている「今年の漢字展」(~2023年2月26日)。清水寺で森清範貫主がこれまでに揮毫(きごう)した大書、28年分の現物が展示されている。
神戸市から訪れた30代の女性は「予想通りの『戦』でした。新型コロナや物価高とも戦う、というとらえ方は意外でした。ただ、来年(2023年)は、この戦いを終わらせられたらと思います」と話した。
東京都の70代の男性は、実際に投票して6年目になる。「『安』を選んでいました。安倍元首相の銃撃事件や、知床遊覧船沈没事故、韓国・ソウル梨泰院(イテウォン)の事故など安全・安心のあり方や治安について考えさせられました」と振り返った。