神戸の観光名所として多くの旅行者が訪れる、中華街・南京町。ここを中心として神戸市内にはレストラン・専門店にかかわらず、こだわり餃子を提供する店が多数存在する。
その中でも老舗有名店のひとつに挙げられる『元祖ぎょうざ苑』(神戸市中央区)は、1951年(昭和26年)に創業し、味噌ダレ発祥の店とされる。さらに同店は“神戸セレクション”と“五つ星ひょうご”という、輝かしい2タイトルに選定された神戸唯一の餃子店だ。
運営を手がける『株式会社Dumplin』代表取締役・頃末灯留さんに話を聞いた。
南京町にある同店、頃末さんは「コロナが蔓延しはじめたころは大変だった」と振り返る。自粛期間にともなう来店客と売り上げの減少を打開する施策として着手したのは「通販」。スマホを駆使して通販ページを作成、力を入れて取り組んだことにより販路の開拓に成功した。
「現在は店舗と通販、両輪がうまく稼働しているような感じでコロナ前より売り上げが伸びました」(頃末さん)
創業72年を迎えた同店は頃末さんの祖父が始めた。
「祖父は岡山県出身。戦前の満州へ貿易のチャンスを求めて渡り、戦後に帰国しました。餃子というものを満州で知った祖父は『日本で流行るんじゃないか?』と考え、店をはじめたそうです」(頃末さん)
頃末さんの祖父が渡った当時の中国では餃子に辣油(ラーユ)をつけて食べる習慣はなく、黒酢をブレンドしたタレを使っていたそう。しかし、黒酢独特の香りに嫌悪感を持つ日本人は多かったそうだ。
「祖父は無類の味噌好きで、何にでも味噌をつけて食べていたそうです。餃子につけてもおいしいと周囲にすすめ、満州にある日本人居住区でその食べ方が広まっていたという。そして日本で店を出す際にも、自分の好きなタレで食べてもらおうと味噌ダレを提供するようになったのです」(頃末さん)
同店の餃子は生地をヘラでひとつずつ伸ばし広げる“満州式”。皮作りにはかなりこだわっている。過去、このスタイルで提供する店はいくつかあったそうだが、今では元祖ぎょうざ苑だけになったという。
噛むと肉汁がじゅわっとあふれる餡には、隠し味として神戸ビーフを加えているのも特徴だ。これは祖父に対する“挑戦状”なのだと頃末さんは言う。
「店を取材されるとき、やっぱり味噌だれが取り上げられがちなんですよね。でも、自分の中では『じゃあ、中身の餡はどうなんだ』という思いがあった。餡の味をもっと認知してもらえるようにすれば、祖父の生み出した餃子に勝てるんじゃないか……と。だったら“究極の神戸の餃子”を目指そうということで神戸ビーフを加えることにしたんです」(頃末さん)