女子サッカーの日本一を決める皇后杯(皇后杯 JFA 第44回全日本女子サッカー選手権大会)で4大会ぶりに決勝に駒を進めた、WEリーグ初代女王のINAC神戸レオネッサ。しかし、ファイナルの舞台で日テレ・東京ヴェルディベレーザに敗れ、7度目のカップウイナーには手が届かず。INAC神戸にとって、朴康造監督のもとで戦ってきた15試合目にして喫した、2022-23シーズン公式戦での初黒星。タイトルを目前で逃したことだけでなく、堅守が売りのチームが0-4と大敗を喫したことも重なり、試合後に涙する選手も見られるなど、敗戦のショックは大きかった。
キャプテンのDF三宅史織選手が「結果がすべてという感じです。もちろん4失点というのは想定していないですし、相手は攻撃の力があるのはわかっていたとはいえ、本当に完敗という感じです」「自分も含めて、この結果というのは……本当に結果どおりの差だと思う。その差を詰めるために、自分たちがこれから、何をしていかなきゃ……いけないのかなというのを、もうちょっとチーム全員で共有していきたいなと思います」と涙ながらに述べれば、主軸のMF伊藤美紀選手も「自分たちのやりたいサッカーもできずに押し込まれる時間も多かったですし、4失点というのがすごく悔しかったので、本当に悔しいの一言です」と肩を落としていた。
朴監督も「完敗だった」「最後、ここまで来て、タイトルを取りたかったが、悔しさしか残らない形になった」と試合後の会見冒頭でコメント。「悔しい気持ちでいっぱい」という思いは表情にもあらわれていた。
試合を振り返ると、朴監督が「立ち上がりは自分たちのINACらしい、前向きに奪って攻めあがることだったり、幅を使った攻撃ができていた」と言うように、序盤、先に決定機を迎えていたのはINAC神戸だった。また、東京NBの強力なFWトリオに対しても3枚のセンターバックが果敢にマッチアップするなど、今シーズンのチームの特長である強度の高さを、球際の激しさを見せる場面もあった。
しかし、時間の経過とともに「ビルドアップのところで相手を引き寄せて幅を使って行くというなか、中央のところでなかなかパスがスムーズにいかなかった」と朴監督。また、ディフェンスリーダーの三宅選手が「自分たちが(相手のFW陣と)マッチアップしている分、中盤で個ではがされたりすると、枚数が少なくなってしまうというところでは、相手の方がやはり一枚上手だったのかなと思う」と振り返るように、東京NBの攻勢に後手を踏むことが多くなった。
前半は0-1で折り返すと、後半の序盤にセットプレーで追加点を許してからは、東京NBの一方的な展開に。途中、けがで戦線離脱していたエースFW田中美南選手を投入し、なんとか1点を取りに行ったものの、逆に残り10分でチームの守備が2失点と決壊。INAC神戸としては2020年9月のなでしこリーグ時代以来の4失点(2020プレナスなでしこリーグ1部・第11節の浦和レッドダイヤモンズレディース戦、1-4)となり、4点差での敗北をみれば2010年シーズン(プレナスなでしこリーグ2010第1節のアルビレックス新潟レディース戦、1-5)までさかのぼることに。ファイナルの舞台で、まさかの大敗を喫してしまった。
この一戦では、チームのストロングポイント、MF守屋都弥選手やDF土光真代選手のいる右サイドからの攻撃が抑え込まれ、攻め手を失ったことも失速の要因に。伊藤選手は、「今までずっと負けなしで来ていたなか、相手もすごく対策をしてきて、うちの右サイドが強いというのはどのチームもわかっていること。それが封じられてきたとき、今度はどこでポイントを作るのか、サッカーを変えていかなければいけないところもある。良さをいかすためにほかのところがもう少し高いレベルでできるようにならなければいけないというのは、すごく感じた試合でもあった」と、試合の中での変化の重要性など、課題を口にする。
「本当に足りないところだらけだなとこの試合で痛感したので……。何がというよりも、すべてにおいて自分たちがレベルを上げないと、リーグ(制覇)も危ういんじゃないかというのが率直な意見」と、同じく厳しいコメントを残した三宅選手。それでも、「やっていいミスとやっちゃいけないミスがあり、その判断(の問題)」と前提を述べたうえで、「これから先、レベルを上げていけば前にボールを運べる」「(東京NB戦でボールを運ぶための)少しスペースを感じるなという余裕ができたということは、もう少し自分たちが何かできると思う」と、後方からのビルドアップという面で、未来につながる感触も得た模様。「結果をしっかり受け止めながら、次につながるかつながらないかは自分たち次第」という背番号5は、今回の教訓を糧に、WEリーグ連覇への思いを一層強くしていた。
また、今回の皇后杯のINAC神戸は、「たくさんのけが人であったり、コロナの影響もあって、なかなかメンバーも揃わないというピンチもあった」(朴監督)なかでも、総力で粘り強く勝ち抜いてきた。朴監督が「選手たちが自分たちから明るく、練習からしっかり取り組んでくれて、前向きにチャレンジしてくれたことが、チームの一体感を生んだ」とイレブンを称えれば、FW高瀬愛実選手も「厳しいゲームだったり、チームとして100パーセントの準備ができないような状態でも、(準決勝までの戦いでは)しっかり勝ち切れる、耐えしのげることができたのは、自分たちの自信になった。難しい展開でも、最後は勝てるということが積み上げられた」とコメント。さらに、自身が負傷離脱を余儀なくされた田中選手は「仲間たちが厳しい戦いを勝ち抜いて決勝の舞台に連れてきてくれたことに感謝したい」と述べ、「そこ(決勝)で結果を出したかった」と正直な思いを語っていた。