【橋本】 これは警察の職務質問について歌ってるんですよね……中将さんも昔、職務質問にあってめちゃくちゃ怒っていたからわかります(笑)。
【中将】 (笑)。まぁ、1970年代は学生運動や社会主義運動が多かった時代なので、今よりも強引な職務質問によるトラブルが多発していたんですね。「黒いかばん」はそんな社会を背景に、高圧的な警察官と、抵抗して職務質問を拒否する若者のやりとりをコミカルに描いたわけですが、大きな共感を呼び、アルバム曲にも関わらず泉谷さんの代表曲の1つに数えられています。
さて、最後は沖縄の若者の怒りを歌った曲です。佐渡山豊さんで「ドゥーチュイムニィ」(1973)。
【橋本】 沖縄弁なので歌詞の内容があまりわからなかったのですが、歌声から強烈なメッセージを感じて思わずスマホで調べてしまいました! タイトル「ドゥーチュイムニィ」は「ひとりごと」という意味なんですね。
【中将】 佐渡山さんは沖縄県コザ市出身で、当時の沖縄を代表するフォークシンガー。この曲が発表されたのは1972年に沖縄がアメリカから日本に返還された直後でした。
「唐ぬ世から大和ぬ世 大和ぬ世からアメリカ世 アメリカ世からまた大和ぬ世 ひるまさ変わゆる くぬ沖縄(中国の世から日本の世 日本の世からアメリカの世 アメリカの世からまた日本の世 どうしてこんなに変わってしまうのか この沖縄は)」
という歌詞が強烈に響きます。沖縄らしさを取り戻そうと歌ったわけですね。
【橋本】 なるほど……私はこの前、映画のロケで宮古島に行かせてもらったのですが、沖縄の方たちは沖縄らしさをとても大切にしているな、こだわっているなと感じました。
【中将】 周囲の大国に翻弄され支配され続けた歴史があるので、こだわらないと沖縄らしさが失われてしまうということが身に染みてわかっているんでしょうね。
【橋本】 そうなんですね……。
【中将】 今回はポップス化される前のフォークをいくつか紹介させてもらったわけですが、怒りという感情の鮮やかさをあらためて感じました。最近は音楽の表現はもちろん生活の中からも怒りが排除されているのではと思うのですが、菜津美ちゃんはどう思いますか?
【橋本】 人前で怒ると「空気が読めない」と思われたり、自分の不利益になってしまうことが多いですよね。だから結果的に怒りたくてもだれも怒れなくなってしまっているんでしょうか。
【中将】 みんなが怒りまくっているのがいいとは思わないけど、自然な怒りすら表現できない社会って不健全ですよね。音楽にしても、もっと怒りの曲があっていいと思います。令和の時代にどんな怒りの表現が生まれるのか期待したいものです。
(※ラジオ関西『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』2023年1月31日放送回より)