東日本大震災のイメージとして、多くの人が「津波」を挙げるだろう。 しかし、内陸部の被害では、宅地造成地の”地すべり”が深刻だった。盛り土の地すべりはなぜ起きるのか、地質学・地震学の研究を続けている兵庫県姫路市在住ではりま地盤・地震研究会代表(日本地震学会会員)、西影裕一さんに聞いた。
西影さんは2021年に熱海市伊豆地区で起きた土石流について解説しているが(ラジトピ・7月5日掲載「他人事でない“土石流”、近畿にも忍び寄る危険 “盛り土”の影響は?」)。この記事で「盛り土」の危険性について触れたが、事故の原因が「不法な盛り土」の場所で起きた土石流を前提としていたため、今回の解説とは異なる。
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阪神・淡路大震災で、兵庫県西宮市・仁川地区で大規模な”地すべり”があり、複数の宅地が崩壊し34人が犠牲になった。東日本大震災の時も仙台市内の丘陵地で地すべりが起こり、4千戸以上の住宅が被害にあった。
東日本大震災では、仙台市内で被害にあった住宅は山の斜面の造成地にあり、地震や大雨で地すべりが起き崩壊した。こうした場所の多くは、盛土が施された造成地だった。一般的に、山は尾根や谷があって凸凹があるが、尾根の部分を切り土(山を削ること)して、その土砂を谷間に埋めて盛り土(「谷埋め盛り土」という)を施し、山地を平らにしてそこに住宅を建てる。尾根を削ったところは岩盤なので地盤としては締まっている(固まっている)が、盛土の箇所は少々時間がかかっても土砂が締まっていないので大雨の時や地震の時に崩れる心配がある。
全国的に、山を削って宅地造成されているのが日本国土の現状といえる。例えば、以下に示す【写真①、②】の赤色で囲んだ枠が、2005(平成17)年の兵庫県立大学環境人間学部(姫路市新在家本町)。拡大率が少し違うのでわかりにくいが、1958(昭和33)年当時の【写真①】と比べて、いかに山が削られて宅地になったかがよくわかる。写真の赤線が谷で、【写真②】の写真では盛り土が施され、住宅が建っている。
盛り土の方法はもう1つある。山を切り土し、その土砂を斜面の下側に盛り土する方法だ。盛り土の上部の幅を広げ、すでにある盛り土部分の安定性を確保する。これは「腹付け盛り土」と呼ばれる。こちらも切り土したところは地盤が締まっているのでほとんど心配がないが、盛り土した場所は地盤が締まっていないので不安がある。
盛り土をした箇所の地下(盛土と岩盤の境)には、地下水が流れていることがあり、それが原因で大雨や地震時に盛り土が滑る。
姫路市に八丈岩山という山がある。ここは約50年前から、山の麓から上方に向かって開発が進み、今ではもとの山の地形は全くわからなくなっている。ここもやはり谷埋め盛り土・腹付け盛り土が行われているので、姫路市は2016(平成28)年ごろに盛り土の下に地下水が流れていないか調査をした。この調査は地すべりを懸念して行われたが、幸いにも地下水は流れていなかったようだ。
腹付け盛土を急な斜面に造成した宅地には擁壁(※)を作ることが多いが、この場合、排水管を設置しなければならない。これは盛り土の中に溜まった水を排水するためである。水が溜まると盛土が軟弱化したり、擁壁を外に押し出そうとする力が働くようになる。最悪の場合、住宅が傾いたり、擁壁が崩れたりすることになる。