プロの演奏家集団である“オーケストラ”。「マネジメントの父」ピーター・ドラッカーは著作の中で、オーケストラを「理想の組織」であると語っています。組織にはそれぞれの専門家がいて、それぞれの役割をまっとうしているわけですが、オーケストラで使われる楽器の中でも、筆者はとくに「シンバル」に特殊さを感じるのです。スチールの円盤を叩き鳴らすだけの単純な楽器に見えることから「誰でもできる」などと揶揄されることもあるシンバル。実際はどうなのでしょうか……?
シンバルのウマい・ヘタやプロ奏者はいるのかなど、元・日本フィルハーモニー交響楽団所属のパーカッション奏者である福島喜裕さんに話を聞きました。
福島さんは“シンバルのスペシャリスト”として名を馳せる人。「シンバルは誰でもできる」と言われがちなことについてコメントを求めると、苦笑しながら「そんなはずはありません」とキッパリ否定。「たしかにバイオリンや管楽器などのように構造上の複雑さが無いことから、そんな風に言われるのでしょう。しかし、シンバルは単純そうに見えても表現力・技術力によって演奏の差にかなりの違いが出る楽器です。プロと素人ではとても大きな差がありますね」と福島さん。
シンバル演奏にはどのような技術が必要なのか質問すると、「ただ鳴らすだけではいけません。楽曲が誕生した背景や必要な“音”を見極める知識が必要です。また楽器自体の大きさや厚み、素材などによって音色が激変するため使い分けもします。自身の思う理想の音や指揮者が求める音を追求し、日々の練習で作っていくのは途方もない作業です。どの楽器も言えることですが、体には負担がかかりますから基本的に体力は必須です!」とのこと。
とくに合わせシンバルは重量があるため、一曲演奏するのに相当な筋力が必要なのだそうです。
オーケストラにおけるシンバルの役割について聞いてみました。
「マーチのようなリズムを刻むときには演奏をリードし、周囲を鼓舞していく場面が多くあります。また、楽曲の盛り上がりの最高潮時や曲の雰囲気の転換時など『ここぞ!』という時に鳴らされるシンバルは、一発で主役に踊り出て良いところを持っていく楽器。一度しか鳴らさない楽曲もありますが、その“一発”が演奏を台無しにする可能性もあり『絶対に失敗できない』というプレッシャーは半端ない。逆にその緊張感が大きな魅力でもあります」(福島さん)
“プロのシンバル奏者”になるには具体的にどうすればよいのでしょうか。福島さんによると、
「大前提として、多くのプロオーケストラでは『シンバル奏者』として採用することはありません。オーケストラではシンバルをはじめタンバリン・小太鼓・トライアングル・カスタネットなど、打楽器を総合的に演奏する必要があります。私も音楽大学で打楽器を専攻し、日本フィルにはパーカッション奏者として入団しています。パーカッション奏者は全ての打楽器を高いレベルで打奏できる必要があり、私自身、シンバル以外の打楽器を担当することもありますね。入団オーディションでは全ての打楽器の演奏能力をチェックされ、求めるレベルの人材が集まらない場合には“採用0”なんてことも」(福島さん)
打楽器は膜鳴打楽器・体鳴打楽器・金属類・鍵盤類など、分類が多岐に渡ります。打楽器の世界は厳しいながらも、それぞれ異なった音の景色が味わえるのが醍醐味だと福島さんは語りました。