新年度、あらためてチェックしておきたいのが「社会人のマナー」です。新入社員はもちろん、環境が変わればその場所でのマナーが求められ、専門書籍を読めば基本的な社会人マナーはひと通り理解することができます。ですが、「これは本当？」「なぜそうしなければならないの？」というマナーを耳にすることも。新入社員・若手社員向けのマナーについて、専門家・西出ひろ子さんに聞きました。
マナー講師でもある西出さんは、前提として「マナーは必ずしも強要されるものではない」ということを強調しています。「私自身、講習では『ビジネスにおいて相手が不快になる確率が低くなる一般的なマナー』をレクチャーしていますが、実践するかどうかは自身や会社で選択・判断していくものです。また、マナーに絶対的な正解はほとんどありません。なぜならマナーは『相手の立場に立ち、相手がどう思うか』で変わってくるからです」とのこと。マナーはあくまで“最終的には自己判断”というのが西出さんの考え。これらの注意点を踏まえた上で、さまざまなケースについて話をしてもらいました。
【ケース1】上司より高い時計を着用するのはNG？
実際に筆者の知り合いが注意され「なぜ？」と感じたという腕時計に関するマナーについて。「上司より高級なものを着用するな」と指摘されたとのことですが……。
◆西出さんの回答
一般的には上司より高い腕時計は着用しない方がよいと言われています。部下が自分より高い時計を着けていてマイナスな気分になる上司も中にはいると聞きます。マナーは「相手にとってどうするのが良いか」と考えることが基本。自分の行動によって嫌な気持ちになる人がいるかもしれない……という視点、いわゆる“想像力”が必要です。よって、ひと目で高級ブランドとわかる時計は避けた方が無難といえまが、高級時計を着けることで自身のモチベーションアップをはかりたいという人も。そんな場合は高級時計だとひと目でわからないデザインを選ぶのも一法です。どんな時計をいくつ所有するかは個人の自由です。複数お待ちなら、『上司と同行する日は安価な腕時計をつける』などTPOに応じた使い分けができると素敵ですね。ただし“絶対”というわけではなく上司との関係性や社風などを踏まえた上で判断しましょう。このようなことを気にしない上司もいますから。
【ケース2】スーツにバックパック（リュックサック）を合わせるのはNG？
こちらも筆者の知人が注意された、カバンに関するマナーです。両手がフリーになるし大容量のため、移動の多い職業の場合はかなり便利だと思うのですが……。
◆西出さんの回答
「カバンは手提げのビジネスバッグであるべき」と注意を受けた方もいらっしゃるようですが、オフィス街ではバックパックを背負ったスーツ姿のビジネスパーソンを見かけることも多くなりました。たしかにかつては『スーツにバックパックはNG』とされる風潮にありましたが、現在はそうと言い切ることはできません。特に東日本大震災以降、両手が塞がらないバックパックは安全面や利便性などにおいて『良いものである』ということが広く認知されました。マナーの形式こだわる以前に、命や健康を優先させることも社会人として必要な事柄だと昨今では考えられています。他社訪問時には、いかにも“アウトドア”なバックパックなどではなく、スーツにマッチする黒や濃紺・茶などのシンプルカラーで本革やレザー風材質のものを選ぶとスマートです。マナーのスタイルは時代や社会背景によって変化していくものもありますね。
【ケース3】上司とのLINE交換の際は部下が“QRコード”を表示するべき？
名刺交換は立場の低い人（訪問者）が名刺を相手の名刺より下に位置して渡すというのがマナーとされています。LINEを交換する際にはQRコードを読み取る側・表示する側と分かれるわけですが、読み取る側のスマホが上にくることから、名刺のマナー同様に立場の低い人がQRコードを表示しなくてはいけないのでしょうか……。
◆西出さんの回答
これは初耳ですね。確かに読み取る側の方が楽な感じがしますから、そういう配慮は素晴らしいですね。令和になってよく耳にする「ニューノーマルな時代」は、“お互い様”の精神で思いやり合う時代でもあると感じます。新しいコミュニケーション方法に既存のルールを押し付けることなく、自然な流れから「読み取る方が楽なのでは？」と相手のことを考えた上で先にQRコードを出したのであれば、それもひとつの正解なのだと思います。
