例えば、AM放送局の放送を、FM放送の電波で同時放送する「ワイドFM」(FM補完放送)を⾏なっています。
また、ネット配信やサブスクなど、皆さんが音楽を聴く方法も多様化してきており、FM放送でもトークの割合が多い番組作りもされるようになってきました。
――AM放送とFM放送の番組内容に境界線がなくなりつつあるんですね。そういえば、「全国のAMラジオ44局が、2028年秋までにFM転換を目指す」という内容のニュースに触れました。AM放送は今後なくなってしまうのでしょうか?
【サウンドエンジニア】 確かに、2021年6月に民放AMラジオ局が共同で記者会見を開き、「全国44のラジオ局は、2028年秋をめどにFM局への転換を目指す」と発表しました。
先ほども少しお話ししましたが、AM放送には、広大な敷地や高さ100メートル規模の大型アンテナが必要です。建て替えや移転が難しく、設備の維持には大きなコストがかかります。近年では、AM放送設備の老朽化が大きな経営課題となっていて、AM、FM両方の設備投資を続けることは経営的に厳しいことから、音質が良く、設備維持のコストが小さくて済むFMへの転換をAM各局が経営的な選択肢にできるようにと、総務省が制度づくりを進めているところです。
ただ、あくまでも「FM転換は各社の経営判断により行われるもの」としており、国の政策としてAM放送事業者に対してFM転換を求めているものではありません。
ラジオには災害時に広範囲へ情報を届けるという⼤切な使命があるため、電波の届く範囲が広く⼭間部などでも受信できるAM、都市部で壁やビルに囲まれていても雑⾳が⼊らず受信できるFMで同内容を放送する「ワイドFM」(FM補完放送)を、現在はすべての国内民間AMラジオ局がとり⼊れています。
2028年秋になっても、ただちにAM放送すべてを停波ということではなく、一定数の局はFMとAMの併用を続ける予定です。
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いかがでしたか?今回は、知っているようで意外と知らないラジオの話を深掘りしました。
ネットでいつでも好きな時にラジオを聴くことができるようになったりと、ラジオを楽しむ方法は昔とは大きく変わりつつあります。しかし形は変わっても、災害時にはやはり重要な情報源として頼れる存在であり続けています。今後のラジオ業界の動向にも注目したいですね。
(取材・文=中口のり子)