自らのルーツと自由への希望を描く 「ピーター・シスの闇と夢」展 市立伊丹ミュージアム | ラジトピ ラジオ関西トピックス

自らのルーツと自由への希望を描く 「ピーター・シスの闇と夢」展 市立伊丹ミュージアム

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 やさしい、穏やかな世界が広がっているように見える。が、よく見ると様々なものが描かれている。闇や暗い記憶。そして夢、希望も。共産党統治下のチェコスロバキア(現・チェコ共和国)に生まれ、自由を求めてアメリカに亡命した絵本作家・ピーター・シスの創作の軌跡をたどる展覧会「ピーター・シスの闇と夢」が、市立伊丹ミュージアム(伊丹市宮ノ前)で開かれている。2023年6月11日(日)まで。

ピーター・シス「三つの金の鍵 魔法のプラハ」©Peter Sis, エリック・カール絵本美術館寄託
ピーター・シス「三つの金の鍵 魔法のプラハ」©Peter Sis, エリック・カール絵本美術館寄託

 1949年に生まれたシスは、これまでに30冊近くの絵本を世に送りだし、数々の絵本賞を受賞、多くの人びとを魅了している。会場には代表作を含む絵本原画を中心に約200点が並ぶ。

 共産党統治下のチェコスロバキアで生まれ育ち、アニメーション作家として活動した後、1982年にロサンゼルスオリンピックの映画を製作するため、チェコ政府から派遣されて渡米。その後東欧諸国がオリンピックをボイコットしたため帰国を迫られるが、帰国せず、そのままアメリカに亡命した。

「人と同じことをしていては認めてもらえない」。そんな思いが、点描という表現方法にたどり着き、時間をかけて丁寧に描かれた新聞の挿絵が評判を読んで、仕事が入るようになったという。

ピーター・シス「Happy Children」©Peter Sis, エリック・カール絵本美術館寄託
ピーター・シス「Happy Children」©Peter Sis, エリック・カール絵本美術館寄託

 絵本にも随所に点描を取り入れるようになったが、印刷されたものでは再現されないところもある。「原画を見ると時間をかけて丁寧に描かれているのがよくわかる」と市立伊丹ミュージアムの岡本梓学芸員は話す。

 シスはすべての絵本で、自分が歩んできた人生と自分自身を投影してきた。ほぼ自伝と言える代表作「かべ 鉄のカーテンのむこうに育って」は、個人の自由が制限されるチェコでの環境や社会情勢、自らの経験を、日記をもとに振り返った作品。マンガのようにコマ割りされ、かわいい絵なのに、「自由が制限されている場面はモノクロで、自由は色で表現されている」など、描かれていることは深い。「どんなに厳しい状況にあっても決して夢をあきらめない強さと持つことが大切」というシスのメッセージが込められている。

ピーター・シス「かべ」©Peter Sis, エリック・カール絵本美術館寄託
ピーター・シス「かべ」©Peter Sis, エリック・カール絵本美術館寄託

 また、シスはダーウィンやガリレオなど偉人達の伝記絵本も手掛けている。「かつての偉人たちにも子どもの頃があり、つらいことがあっても大きなことを成し遂げた。次は君たちの番だよ」と、子どもたちへ語り掛けている。

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