映画の好みや楽しみ方は人それぞれ。このコラムでは、元映画館スタッフで映画企画屋の宮本裕也さんが、独自の視点から映画の“観かた”を紹介します。今回は「実写版映画」の不思議な魅力について考えてみました。
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「実写版」と聞いて皆さんは何を思うだろうか? 成功した作品もあれば、苦虫を噛んだ作品も数知れず。ゲームやアニメを実写化したドラマや映画はファンの期待値が高いぶん“名作”になることもあれば、逆に“迷作”にもなりえる。
1993年、ハリウッドが約50億円かけて制作した作品が『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』。映画史において80年代後半〜90年代前半といえば『バットマン』(89年)、『トータル・リコール』(90年)、『ターミネーター2』(91年)、『デモリッションマン』(93年)、『ジュラシック・パーク』(93年)など数々の名作SFが上映されていた時期。本作はどうかというと、名だたる名作SF映画もびっくりの設定が飛び交う。作品レビューを見ると好き嫌いがまっぷたつ。あらすじはこうだ。
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ニューヨーク・ブルックリンで配管工を営むマリオ兄弟。ある時、化石発掘を行う調査チームのデイジーに一目惚れ。しかしデイジーは謎の男たちに誘拐され、突然、壁に吸い込まれてしまう。助けようとしたマリオたちも彼女を追って、壁の向こう側へ。そこに広がっていたのは6500万年前に人間世界と二分した恐竜帝国の名残がある世界だった……。
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「うぉぉぉぉ! なんだこの好奇心をくすぐる謎設定!(筆者心の声)」
※以下ネタバレを含みます。本作を楽しみたい方はぜひ本編をご鑑賞ください。
さっそく本作の見どころを紹介していこう。
■設定に忠実。仕事を愛する職人気質の配管工「マリオ」
マリオとルイージは配管工として生計を立てている。しかし家賃を滞納するなど、生活には苦労している。マリオたちの生活を覗くだけでもおもしろいのに、配管工の技術を物語内で割とがっつり披露する。「レンチを取ってくれ」「しっかり閉めろ」など、ガチな場職のやりとり。しまいには配管工ならではの「格言」も飛び出すしまつ。ゲームではほぼ注目されない設定ながら、仕事に対するマリオの熱い想いにはグッときた。
■ヒロインは「デイジー」? やたら豪華な背景セットに圧倒される
マリオのヒロインといえば、たいがいの人は「ピーチ姫」と答えるだろう。まずその考えは捨ててほしい。はっきり言って、本作は“固定概念”があると後々の展開が楽しめないのだ。恐竜の世界に迷い込んだマリオたちが見たのはクッパ大王が支配する混沌とした世界。このセットが見るからに金がかかっている! 画面には原作とかけ離れた世界観が広がる。
◾️原作でおなじみ、ラスボス「クッパ」や名バイプレーヤー「ヨッシー」は?
不思議世界をさまようふたりの前についに現れたクッパは……えっ、まさかの人間! しかもヘアスタイルが強烈! 名優・デニス=ホッパーが演じていることなど星の彼方に飛んでしまいそうないでたち。クッパは「プリンセスを捕え世界を支配する」という野望を抱いており、逆らった人間には罰として知性を衰えさせた“恐竜人間”にするという恐ろしさ(しかし、この恐竜人間が妙に可愛い)。彼に飼われているのがヨッシーで、本作のバランスブレイカーと言っても過言ではない。原作は愛され系のルックスだが、本作では「ヨッシー」という名の恐竜なのだ。皮膚感も実に恐竜のそれで、肉っぽいものを食べさせようとするシーンだってある。実際に原作のヨッシーについて調べてみたところ、“カメなのか恐竜なのかは不明”という設定のようだ。だとしたら本作の解釈も決して間違いじゃないのかもしれない。