「大阪の四条派」の絵師、五井金水(1879~1942年)の作品約30点を初めて公開した企画展「初公開 五井金水とゆかりの画家たち―船場で愛された絵師の画房から―」が大阪くらしの今昔館(大阪市北区)で開かれている。6月18日(日)まで。(※イベントは終了しました)
大阪の四条派は、円山応挙ら京都の四条派の流れをくみ、その作品は船場の商家などの依頼で制作されることが多かった。商家では、絵を掛け軸や屏風に仕立て、行事や季節の移り変わりを演出した。
今展の金水作品は、金水の家族から同館が譲り受けたもので、すべて初公開。絵画のほか、金水が実際に使っていた画材や落款印、画房の看板なども展示。また、金水ゆかりの画家の作品も紹介している。
「瀧図」(1931年)は、墨の濃淡のみで、ダイナミックに滝が流れ落ちるさまを表した傑作。落ちる前の水の盛り上がりがこまやかに描き込まれているのに対し、画面下部の落ちた水は余白で表現。激しい水音が聞こえてきそうなリアリティーを伝える。
同じく水を扱った作品でも、「薫風」(制作年不詳)の水流はきわめて穏やかだ。中心で泳ぐ金魚は、透明感のある美しいひれを揺らす。その下にうっすらと浮かぶ水草と相まって、奥行きを感じさせる優雅な画面を作り上げている。
金水は「最も得意とする所は花鳥山水」「天才的技能」(「京阪神に於ける事業と人物」1919年刊)と評された。中でも生き物を題材とした作品は、自然な立体感、躍動感に満ち、生命が宿っているかのよう。
その筆遣いが地道に積み重ねた努力のたまものであることが分かるのが「写生画」のコーナーだ。同コーナーには、鳥の身体のパーツ、枯れ葉の葉脈などが精緻に記録された、まるで図鑑のような写実的な素描が並ぶ。さまざまな動植物のスケッチによって、絵師としての研鑽を積んだ様子が見て取れる。
そのほか、安治川に停泊する巨大な北前船(大阪と北海道を日本海回りで結んでいた商船)と、船上の人に飲食物を売ろうと近づく小舟を描いた「水郷舟遊」(制作年不詳)など、かつての風俗を伝える作品も。
担当の服部麻衣学芸員によると、金水は、確かな実力がある絵師ながら、これまで作品があまり知られておらず、注目されていなかったという。同学芸員は「寄贈いただいた作品群を見ていると、上品であっさりとした絵が当時の大阪で愛好されていたことが分かる。今回の展覧会は、金水の作品をまとめて見ることができる貴重な機会なので、ぜひ足を運んでいただきたい」と話している。
◆企画展「初公開 五井金水とゆかりの画家たち―船場で愛された絵師の画房から―」
会場:大阪くらしの今昔館(大阪市立住まいのミュージアム)〒530-0041 大阪市北区天神橋6丁目 4-20
会期:2023年4月29日(土)~6月18日(日)
休館日:火曜
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
入館料:企画展のみ300円、常設展+企画展 一般800円、高大生500円
問い合わせ:同館06-6242-1170