《神戸連続児童殺傷事件26年》“生きた証(あかし)”人知れず廃棄され…「つらく切ない、でも落ち込んでばかりは…」土師守さん | ラジトピ ラジオ関西トピックス

《神戸連続児童殺傷事件26年》“生きた証(あかし)”人知れず廃棄され…「つらく切ない、でも落ち込んでばかりは…」土師守さん

LINEで送る

この記事の写真を見る(8枚)

最高裁

 記録廃棄問題を受け、最高裁は一連の経緯を調査している。調査対象は全国36家裁・支部の少年事件52件と、民事裁判を加えた計約100件。
 守さんは問題発覚後の2022年12月に最高裁へ面会を申し入れ、2023年2月に最高裁の有識者委員会による意見聴取に応じた。守さんはこの時、「閲覧できなくても、残っているのと廃棄されたのでは遺族の心情として雲泥の違いがある。国民の常識と司法の常識には乖離がある」と訴えた。
 最高裁からは、「廃棄は適切でなかった」と謝罪があり、関係職員などへの聞き取り調査の結果については、当初2023年4月に報告すると回答していたが、調査に追加項目があり延期され、5月中にも公表される見通しとなった。廃棄の経緯や原因が、どこまで明らかになるのかが注目される。

要望書提出のため神戸家裁へ入る土師守さん<2022年10月28日・神戸市兵庫区>
神戸家裁への要望書提出後、会見する土師守さん(左)と井関勇司弁護士<2022年10月28日・神戸市中央区>

 「どういう経緯で廃棄されたのか、それに対して、どう対策を取るのか。これから保存のあり方や手段をどうするのか。自分の身に置き換えて考えてほしい」。守さんの願いはこれに尽きる。
「ひとつの方法として、デジタルデータの活用もある」。守さんは、医師としてカルテのデジタル化にも関わった経験もあり、避けて通れない道だと話す。そして、「私たち犯罪被害者遺族の、つらく、切ない状況を少しでも理解してほしい」と、最高裁をはじめ司法界に訴えかけている。

■つらく、悲しいことに向き合うのは、苦しい。
 できることなら、そっとしてほしい。

「事件についての『なぜ』に答える、真実を知る手段が、加害者の男性からの手紙だった」

 事件発生からしばらくの間は、本当に精神的にも肉体的にも厳しかった。自宅には多くの報道陣が詰めかけ、常に監視されているような状態だった。ひっきりなしに自宅のインターホンが鳴る、電話が鳴る…家族を失い、悲しみに暮れる守さんら遺族に襲い掛かる”メディア・スクラム”。「私たちに、何を聞こうとするのか」。ここまで被害者を追い詰める権利がマスメディア(報道機関)にあるのかとの疑問がよぎった。
 その一方で、守さんは事件から20年経った2017年5月、ラジオ関西のインタビュー取材に、犯罪被害者等基本法(2004年、超党派の議員立法で成立)の制定に向けた署名活動(56万⼈分が集まった)を報じ、機運を後押したのはメディアの力のよるところが大きかったと振り返る。
 そして、今回浮上した「記録廃棄問題」も、ややもすれば埋もれてしまったかも知れない事実が、メディアの取材によって明らかになった。
 守さんは「確かに、メディアの役割は重要だ。だからこそ、芯がぶれることなく報じてほしい。”早い者勝ち、スクープ合戦”のような報じ方ではなく、本当に重要なことをしっかりと、社会的に意味のある報道を望みたい」と話す。

 加害者の男性は、2004年に医療少年院を仮退院した。しかし2015年に突然、”元少年A”として手記「絶歌」を出版、物議をかもした。 男性は自らの近況を知らせる手紙を守さんのもとに届けていたのだが、手記の出版に強く憤り、抗議した守さんは2016、2017年は手紙の受け取りを拒否した。そして2018年から手紙は途絶えた。「事件についての『なぜ』に答え、真実を知る」手段のひとつが手紙だった。とても悔しい。
 そして事件記録も失われた。「どうしてこんなことが起きるのか。まだ、我々を苦しめ続けるのか…」怒りや憤りは、時間とともにトーンダウンはするが、収まることはない。
 守さんの本音は「もう、これぐらいにして欲しい。静かな余生を過ごしたい」。そして「怒り続けていたら、生きて行けない」と気を取り直し、前を向く。「そこで落ち込んでいても、誰も助けてくれないのだから」。

LINEで送る

関連記事