1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件など、重大少年事件の記録が廃棄された問題で、最高裁が25日、約半年にわたる調査報告書を公表した。
最高裁の対応について「誠に不適切」と指摘し、「後世に引き継ぐべき記録を多数失わせた。国民の皆さまにおわびする」と謝罪した。報告書では、最高裁が1992年ごろ、保存記録を膨大化させないよう全国の裁判所に指示したことが、保存への消極的な姿勢を強め、その後も適正化を図る指導をしたことはうかがえないと指摘した。
調査対象は全国36家裁・支部の少年事件52件に、民事裁判を加えた計約100件。最高裁は2022年11月以降、廃棄当時の裁判所職員への聞き取り調査などを実施した。
最高裁の内部規定では、少年事件の記録を、少年が26歳になるまで保存するとしているが、史料的価値の高い記録や社会的影響が大きかった事件の記録などは、26歳以降も「特別保存」として事実上、永久保存するよう規定している。
神戸連続児童殺傷事件の記録は、神戸家裁所長の判断がなく、記録の価値について十分な検討がされないまま廃棄されたとした。神戸家裁によると、記録が廃棄されたのは2011年2月28日とみられるという。多数の職員(当時)らは、特別保存について「例外中の例外」などと考えていた。
最高裁は今後、特別保存の認定プロセスは、保存期間の満了を待たずに直ちに認定手続きを進めるものとし、可能な限り全国一律となるよう見直すとした。
調査報告書の公表を受け、神戸家裁は「報告書記載の通り、当時の運用が不適切であったものであり、厳粛に受け止めている。報告書では、最高裁で特別保存の認定基準やプロセスについて検討し、関係する諸規定の改正等が行われると聞いている。それに従った適切な運用等を確保していきたい」とコメントした。
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神戸連続児童殺傷事件で次男・淳君(当時11歳)を失った父親・土師守さんは、「事件記録の廃棄は、いつか全ての事件記録を閲覧でき、事件の真相に近づけるかもしれないという私たち遺族の淡い期待すら奪い去るものであり、事件記録の公的資料としての重要性に照らしても大きな問題をはらんでいる。私は、裁判所のずさんな記録管理体制を強く非難するとともに、記録廃棄に至った原因や背景事情の徹底した調査を裁判所に求めてきた。
公表された調査報告書が、これらの問題提起に十分にこたえ、被害者遺族の苦しい心情に配慮してくてれていると言えるかどうか、これから報告書を読み込んで検討したい。最高裁からの説明も伺ったうえ、適切な時期に、私の見解や心境を皆様にお伝えしたい」とコメントした。
京都府亀岡市で2012年、無免許の元少年(当時18歳)が運転する軽乗用車が集団登校中の児童らの列に突っ込み、死亡した松村幸姫さん(当時26歳)の父親・中江美則さんは、「事件記録は幸姫の心の叫び、無念の声、それらは“生きた証(あかし)”。単に加害者のことが記されているだけではなく、愛娘の”生きざま”も詰め込まれたガラスの箱のようにデリケートなもの。それが一瞬にして割られてしまった。時間がたってから記録を読みたくなる遺族もいるはず。そうした思いを、記録保存に関する議論に生かしてほしい。最高裁から直接、謝罪の言葉を聞きたい」と話した。