是枝監督最新作『怪物』 シングルマザー・教師・小5男子 3つの視点で描かれる人間ドラマ | ラジトピ ラジオ関西トピックス

是枝監督最新作『怪物』 シングルマザー・教師・小5男子 3つの視点で描かれる人間ドラマ

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 1日経ち、早織は学校から呼ばれます。校長室に保利先生が教頭や学年主任に連れられて入ってきました。保利先生は明らかにあらかじめ準備していただろうと推測される言葉を述べます。

「この度は私の指導の結果、湊くんに誤解を生むことになりまして非常に残念なことと思っております、申し訳ございませんでした」

 校長や教頭らも保利先生と一緒に頭を下げます。

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 早織「違いますよ、ちょっと待ってください。息子はね、この先生からひどいことを言われて傷ついたんです。誤解ってことではないんです」

 校長「指導が直接に伝わらなかったものだと考えております」

 早織「この先生に叩かれて息子はケガしたんです。分かってます?」

 校長「ご意見は真摯に受け止め、今後適切な指導をして参りたいと考えております」

 校長は紋切り型の応答でその場を収めようとします。早織は誤解ではなく事実だと詰め寄ります。

 早織「じゃあ、殴ったんですか。殴ってないんですか」

 保利先生は動揺した表情を浮かべながら、何も答えません。校長はまるで国会の官僚答弁のように報告書のファイルを読み上げます。

 校長「教員の手と麦野湊君の鼻の双方に接触があったということが確認できております」

 早織「殴ったってことですよね」

 校長「ご意見は真摯に受け止め、今後適切な指導をして参りたいと考えております。どうかご理解ください」

 校長の棒読み答弁を合図に、教員たち全員が再び頭を下げました。事実を認めようとしない彼らの態度に、早織は悔しさでいっぱいです。

 ところが実際には、保利先生は子ども思いの熱心な教員でした。保護者に自らの言葉で説明したいことを教頭らに申し出ていましたが「トラブルが大きくなったら困る」という学校の方針で、無理やり謝罪させられていたのです……。

サブ

 監督は是枝裕和。脚本が坂元裕二です。今週、カンヌ国際映画祭で脚本賞に輝いたことが大きなニュースとなりました。

 是枝監督の映画づくりは脚本を自ら書くことがほとんどで、自身のものでない脚本で映画を撮るのはデビュー作『幻の光』(1995年)以来28年ぶりです。このため、是枝監督は撮影現場で冷静に客観的にシーンをとらえることができたそうです。「自分で書いた本は現場でもつねに疑っているんですが、自分で本を書いていないと脚本上の試行錯誤がない分こんなにもクリアに現場が見えるんだなって。坂元さんの本が素晴らしかったからなんですけど、今回の現場は楽しかったです」と振り返っています。

 今作の物語は、黒澤明監督が同じ事件を登場人物ごとの視点で描いた『羅生門』のように展開します。撮影の多くは長野県諏訪市で行われているのですが、大きな湖のある町を舞台としてまず“息子を愛するシングルマザーの視点”で展開し、次に“小学校の男性教師の視点”、そのあと“秘密を抱えた子どもたちの視点”で学校をめぐる出来事を描いています。

サブ2

 キャストは小5の息子を愛するシングルマザー・早織が安藤サクラ。『万引き家族』(2018)に続き、是枝作品出演は2度目です。早織の息子の担任・保利先生に扮するのは永山瑛太。校長が田中裕子です。早織の息子・湊を演じたのは黒川想矢、湊の同級生・依里を演じたのが柊木陽太で2人とも思春期が始まる繊細な心模様を表現しています。

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カンヌ国際映画祭フォトコールより(Pascal Le Segretain/Getty Images)

 音楽は今年3月に亡くなった坂本龍一さんです。是枝監督の長年の念願でした。監督は坂本さんへ依頼する手紙と、編集して坂本さんの楽曲を仮としてのせた映像を送ったそうです。坂本さんからは「とても面白かった」として引き受ける旨の返事が届きました。スコア全体を引き受ける体力は残ってないけれど思い浮かんだ曲が1、2曲あるということでした。最終的に書き下ろしの音楽2曲と、坂本さんの最新アルバム『12』などから選んだ曲が本編で使われていて、物語の余韻を引き立てています。

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