神戸市北区の路上で2010年10月、堤将太さん(当時16歳・高校2年)が殺害された事件で、殺人罪に問われた元少年(30・事件当時17歳 記事上は「男」と表記)の裁判員裁判の初公判は、神戸地裁で7日午後も続いた。
男は「(将太さんに対する)殺意はなかった」として、起訴状の内容を否認しており、弁護側は善悪の判断が著しく低下する「心神耗弱」状態だったとして刑の減軽を求めている。主な争点は男の責任能力の程度と殺意の有無で、判決は23日の予定。
弁護側の証人として出廷した男の父親については、遮へい版に囲まれての尋問となった。被害者参加している将太さんの父親・敏さんによる「男が犯人であることを認めているのか」という問いに、素直に認めた。
そして「(いまだに聞いていない)謝罪について考えていなかったのか」という質問には、「もし我が身に起こったこと(逆の立場)ならば、憎悪が増幅していたに違いない。息子が逮捕されてから、家族でも話し合っていたが、事実をまとめて整理して(親として)適切な言葉で謝罪したかった」と弁解した。
7日、検察側の冒頭陳述で、「男は同年代の“不良のような”男性に反感を持ち、犯行当日も将太さんを見て、同じような感情を抱いた」などと指摘した。男は犯行後、千葉県浦安市や愛知県豊山市のほか、父親の赴任先の中国にも行き、ドイツへサッカー留学もしていたことが明らかになった。
このことについて敏さんは「その“愚かな”判断は、お父さん、あなたなのですね」と問うと、父親は「そうです」と答えた。
さらに「遺族の10年10か月間の苦しみがわかるのか」と訴えかけると「心痛極まりない」と述べ、「自分の子どもが満足するなら、人を殺してもいいのか」と怒りをあらわにした敏さんに対して、裁判長が制止し、「お気持ちはわかりますが」と尋問の趣旨を改めて説明する場面もあった。
閉廷後、敏さんが会見した。これまで刑事裁判の傍聴を続けてきたこともあり、被害者遺族として参加することに対しての抵抗はなかったという。そして「法廷に入ってきた被告を見て、何て”生気のない人物”なのかと思ったし、まったく目も合わさないことに驚いた。罪状認否の時、目線は斜め上を見ながら言葉を発していた。このような態度で、被告はあす(8日)の被告人質問で本当のことを話してくれるのだろうかとの不安がよぎる。そして、17歳の時の犯罪とはいえ、30歳を過ぎた被告が少年法の適用によって匿名で裁かれることに疑問を感じる。単に更生を目的とするだけのものでいいのか」と話した。
同席した遺族代理人の河瀬真弁護士は「法廷での(被告の)父親の態度は、『記憶にない』というニュアンスの言葉が多く、他人事のような印象を受ける。なかなか真実の追及は難しい。あすの被告人質問では、遺族にとって、犯人検挙に至るまでの10年10か月の重みをどう考えているのか、検察官の立場ではなく、遺族だからできる内容にしたい」と話した。
起訴状によると、男は2010年10月4日午後10時45分ごろ、神戸市北区筑紫が丘の歩道上などで、将太さんの上半身などを折りたたみ式ナイフで複数回突き刺すなどし、失血死させたとされる。
検察側は男の精神鑑定(約5か月の鑑定留置)を行い、責任能力があったと判断して起訴された。一方、弁護側も2度目の精神鑑定の結果を踏まえ、統合失調症などの疾患により、善悪を判断し、それに基づいて行動する能力が極めて低下している「心神耗弱」を理由に、刑を軽くするよう求めた。