外国に住んで、海外の文化に驚くこともあれば、母国の文化について再考する機会を得ることもあるでしょう。このコラムでは、元新聞記者で、現在二児の母としてマレーシアで暮らす斉藤絵美さんが、マレーシアで開催される日本の「盆踊り」イベントについて、昨年起こったとある騒動を通して紹介します。
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夫の転勤に伴い、家族でマレーシアに生活拠点を移し、今年の春で1年が経ちました。ここマレーシアはイスラム教が国教。6割を超える国民が信仰しています。
そのような中、人気行事の一つとしてマレーシアで定着しているのが、日本の「盆踊り」です。
首都・クアラルンプール近郊では、1977年から、現地の日本人会や日本人学校、在マレーシア日本大使館が主体となって、日本の文化を紹介するイベントとして開催してきました。現地で暮らす日本人だけでなく、ローカルの参加者も多く、盆踊り大会は毎年3万人を超える来場者で賑わうといいます。
盆踊り以外に、和太鼓のパフォーマンスなども行われます。会場では、イスラム教徒に禁止されているアルコールこそ提供されませんが、たこ焼きやかき氷など、ずらりと並ぶ日本定番の屋台は人気の一つです。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年、21年は残念ながら中止に。昨年、22年は3年ぶりの開催とあって、主催者も万全の準備を進めていました。
しかし、開催直前に水を差す事態が……。マレーシアの大臣が「(仏教に根差す)盆踊りには宗教的な要素が含まれるため、イスラム教徒は参加しない方がいい」と国民に呼びかけたのです。確かに、日本の盆踊りは、死者の霊を慰め送るものとしてお盆の時期に行われます。ただ、今となっては仏教行事としてではなく、伝統的な風習や地域のイベントと捉えている日本人が多いのではないでしょうか?
それまで私は、女性が“ヒジャブ”と呼ばれるスカーフのような布で頭髪を隠し、1日5回のお祈りの時間を知らせる「アザーン」が大音量で町中に響き渡ること以外は、イスラム教を意識することなく過ごしてきました。しかしその出来事で、マレーシアが宗教の国だと実感しました。
件のマレーシアの大臣の発言には、ほかの政治家のみならず、SNSを通じてローカル(地元)の人からもさまざまな意見が上がりました。結局、過去にこの盆踊り大会に参加したことがある、開催地スランゴール州の州王が「単なる文化的なお祭りだ」と訴えたことで、無事開催されることになりました。
この一連の騒動は現地でも報道され、ローカルの人との会話でも話題に上るほどでした。そのせいか、開催してみると例年の1.5倍を上回る5万人超が来場しました。主催団体の一つ、クアラルンプール日本人会の担当者は「コロナによる規制が解除された最初の大きなイベントでもあり、大臣の発言に対する反発もあったのではないか」と話します。
それにしても、45年にわたって開催してきていたのに、どうして昨年だけ大臣から“クレーム”が付いたのでしょうか?