世間は夏休み、旅行のシーズンに突入しました。大手旅行会社によると、今年の夏休み期間の国内旅行者はコロナ前の水準まで戻ると予測されており、ホテルや旅館の予約状況を見ていると完全に埋まっているところも多く見られます。
さて、ホテルや旅館を利用する際に必ず書かないといけないのが「宿帳」です。フロントでは宿泊する際に「氏名、住所、電話番号」など個人情報を記載する必要がありますが、これが法律により施設側に義務付けられているということはご存知でしょうか? なぜ「宿帳」は法的に必要なのか……ホテル・旅館業界に詳しいホテル評論家の瀧澤信秋さんに話を聞きました。
ホテルや旅館に宿泊する際に個人情報を書き込む宿帳は、正確には『宿泊者名簿』と呼びます。旅館業法では、指名・住所・職業などを記載する宿泊者名簿を必ず作成するよう定められています。「忘れ物をした時などの連絡先」や「料金を支払わずに逃げる等の犯罪防止」などの理由で書くものだと思っていたのですが、じつは法で定められていたとは。どのような理由により法で定められているのでしょうか?
「元々の目的は伝染病や食中毒など『感染症の拡大を防ぐため』にあります。それらが発生した場合、感染ルートを特定し拡散を防止する必要があります。終戦後、日本人の死因で一番多かったのが感染症であり、そこで少しでも感染症の拡大を防ぐために宿帳を記入させることが法律で義務づけられたという経緯があります」(瀧澤さん)
しかしながら、現代においては「感染症の拡大を防ぐため」という意義は少ないようです。瀧澤さんによると「宿帳を元に感染源を特定し感染拡大を防ぐことに成功したという例はあるものの、ケースとしては少ないです。それでも現代においてもこの法律が無くなっていないのは『犯罪抑止』の目的が大きいからです」とのこと。例えば犯罪者が宿帳に記入したとして、偽名を書くことが予想されます。それでも筆跡は残るため、警察の捜査に役立てることができるのだそう。
とはいえ宿泊施設にもDX化の波は訪れており、旅館業法の改正により「宿帳への記入」は規制緩和された部分もあるようです。
「確実な宿帳の記入が必要となれば、民泊や無人フロントなどでの受付はできません。この部分は法改正により規制が緩和されたのと、自治体による宿帳への解釈が関係してきます。例を挙げると、アパホテルの『1秒チェックイン』というものがあります。これは事前に個人情報を含めた会員登録をしておくことで、来館時に専用機にQRコードをかざすだけでチェックインが可能なシステムです。民泊であれば、運転免許証の画像確認を遠隔で行うなどの方法が宿帳の正確な記載にかわる手段として自治体によっては認められています」(瀧澤さん)