植物でも動物でもない粘菌。この粘菌を自ら採取し、観察し、テーマにした作品を発表する美術家・高田光治の作品1500点あまりを集めた展覧会「高田光治のミクロコスモス劇場展-粘菌と胞子がつむぐ物語-」が、宝塚市立文化芸術センターで開催されている。2023年9月3日(日)まで。(※「高」=はしごだか)
粘菌とは、名前に菌がつくが菌類の仲間ではなく、動物や植物でもなく、アメーバ動物というグループの一種。世界では約1000種類、日本でも600種ほどが見つかっている。森の食物連鎖の中で腐敗を調整する役割を担いながら、ひっそりと活発に活動し「森の静かな守りびと」とも言われる。その姿はさまざまで、カラフルで美しく、サイエンスの分野だけでなくアートの分野でも注目されている。高田さんは、粘菌を自ら採取し、「粘菌とのコラボ―レーション」ともいえる作品を発表している。
「作品の中で黄色く見える部分。これが粘菌が動いた軌跡です」と高田さん。紙の上に粘菌を置き、動いてほしい方向に「オートミール」を置く。そうすると粘菌たちは行ったり来たりしながら、餌に向かう。「オートミールの位置を変えながら粘菌を動かし、ここだ!というところで冷蔵庫に入れて『冬眠』させるんです」。まさにタイトルの通り「食を求めて」動いた粘菌たちの軌跡を見ることができる。
「旅人の舟」には、高田さん自らが森で集めたコレクションが乗っている。舟の前方にキノコ類、後方には粘菌。ただ1つ1つを細部まで見ることが難しいので、映像化し拡大したものを、壁一面に並べた(作品「大体を観る・知る」2023年)。キノコや粘菌を捉えた上部は、胞子が飛ぶ様子を想像し箔を使って表現したためキラキラして見える。また下部はその周りで起こっている植物と虫との攻防、微生物の動きを視覚化した。高田さんは「葉の一部が虫に食べられている。ほかの部分はなぜ大丈夫なのか。それは植物自体が身を守るための行動、例えば毒性のあるものを出すなどした結果。これが自然界」と話す。
竹やぶにしか生えない「キヌガサダケ」はキノコの女王とも言われる。キヌガサダケをかぐや姫に見立て竹取物語の世界をイメージした作品は、月に帰るシーンを表現した。一行が目指す月はタンポポの種子を集めた。神秘的な世界が広がる。