安倍元首相の国葬について、大島監督はずっと気になっていた。会場となる日本武道館がある九段下には多くのメディアが集まり、オンタイムで報じることは目に見えている。大島監督は、どのように独自性を出すかを考えた。
そこで国葬ではなく、国葬の「日」が大事なんだと気づく。その日一日、全国各地へカメラを出すことで、日本人の意識や特質を表現できないかと思いついた。会えて安倍元首相の地元・山口(下関)にもクルーを出した。そこに“忖度”はない。フラットに、東京や京都、福島や沖縄など全国10か所で撮影できたのは、テレビ局で報道セクションに関わることなく、番組制作をメインにしていたからかも知れないと話す。
「そこに起きている日常を、そこで何を考えているかを、聞ける人に聞こう」。台本なし、脚本なしの撮影、結果として記録性が高い“素の日本人”の姿が見える。公式記録はニュースで報じられた通り、菅義偉前首相の「総理、あなたの判断は、いつも正しかった」、岸田首相の「あなたこそ、勇気の人でありました」という追悼の辞は、日本武道館内部のことに過ぎない。
大島監督が欲しかった映像は「あの日、日本中にこういう人々がいた」という、もうひとつの側面、いわばSIDEーBのようなものだと話す。
報道機関として街の声を聞けば「安倍さんはよくやった」「外交に長けていた」、「モリ、カケ、桜(森友学園、加計学園をめぐる問題、桜を見る会での疑惑)はどうする」、あるいは「興味はない」という端的な言葉が返ってくることが多い。しかし、この映画は各地で本音ベースの連続が日本列島を貫いた記録となった。「できそうで、実はできないことをやったね」という、メディア関係者の声もあった。
カメラは何でもない日常もとらえた。朝10時に東京・上野のパチンコ店の前で並ぶ人々、京都・平安神宮前で屋台イベントの後片付けをする男性、銃撃現場となった奈良・大和西大寺駅前で花を手向け、手を合わせる人々、台風15号(2022年9月23~24日)による大規模浸水被害に見舞われた静岡・清水では、「国からの支援はなく、国葬どころではない」との声。
作家・落合恵子さんは、東京・日比谷公園の国葬反対集会でマイクを握る。
■「『国葬の日』本予告編
【映画「国葬の日」WEBサイト】