岡さん自身は「難民」役で出演する。難民の踊りを振り付けた際は、ドイツで過ごした大学時代の親友を思い浮かべていたという。親友は、ルーマニアから来た難民だった。ルーマニアの共産主義が崩壊し、ドイツに来た彼女は、いつ強制送還させられるかと怯えていたという。岡さんは「日本にいたら想像しにくいが、祖国を失うということは大変なこと」と思いを寄せる。
迫害や戦争に苦しむ人々がいる世界で、何のために自分は踊るのか。岡さんの日々の自問は、いつしか「平和への願い」という答えにたどり着いた。「ダンスで政治を動かすことはできないが、平和を祈ることはできる」(岡さん)。「緑のテーブル2017」の根幹には、平和への情熱が込められている。
今回、ダンス未経験者を含む50人が踊り手としてラストシーンに登場、各人が思いを込めて「祈り」を表現する。メンバーは、小学生、主婦、住職、落語家、外国籍の人などさまざま。その人の内面が醸し出されるよう、衣装はあえて手持ちの「普段着」で臨んでもらうという。「祈る神はそれぞれ異なっていても、祈るという人間の行為は一つのはずだ」という舞踏家・大野慶人さん(2017~2019年、「風」役で出演。2020年没)の言葉に触発されて生まれた、作品の真骨頂といえる名場面だ。
コロナウイルスの流行、不穏な国際情勢。明るくない時代を生きる私たちに向けて、岡さんは「今という瞬間を踊りで表現したい。踊れるのは生きているからこそ。ダンスは命と直結している」と、力強い口調で語り掛ける。「私たちのパフォーマンスで、その場に居合わせた人を勇気づけられるような何かが生まれることを願っています」。
公演に関連する問い合わせは神戸文化ホール、電話078(351)3349。
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岡登志子(おか・としこ)さん
神戸市長田区出身。コンテンポラリー・ダンスのカンパニー「アンサンブル・ゾネ」主宰。、クルト・ヨースが創始したドイツの芸術大学舞踊科で、ヨースの「緑のテーブル」に出演していたダンサーからダンスのメソッドを学ぶ。卒業後、神戸を拠点にダンサー、振付家として人間の実存を問う作品作りを行っている。2018年、神戸市文化賞受賞。
◆「緑のテーブル2017~神戸文化ホール開館50周年記念Ver.~」
日時:2023年10月21日(土)午後3時開演
会場:神戸文化ホール中ホール 〒650-0017神戸市中央区楠町4丁目2-2
入場料(全席指定):一般4,000円、25歳以下2,500円、高校生以下1,000円
問い合わせ:神戸文化ホール、電話078(351)3349