「企業とのコラボ多いんやな」「いま1000円のもあるやろ」「欲しいのを出すために、箱をようひっくり返したわ」。
夏も終わりに近づいた、ある日。BtoB企業の本社会議室で、5色の球体を前に壮年の男性たちが躍る心を隠せない様子で談義を繰り広げていた。彼らの手にあったのは発売されたばかりのカプセルトイ。出来上がって間もない自社企画商品だ。男性たちの顔は、無邪気な少年に戻っていた。
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今年8月、新戦略としてカプセルトイを世に送り出したのは、物流機器・システムの「オークラ輸送機」。創業1927年の100年企業で、兵庫県加古川市に本社を置き、物流(コンベヤ) 機器を主軸に、生産向け・流通向けのマテリアルハンドリング(=運搬作業、通称「マテハン」)システムからライフケア事業まで手掛ける。同社のグループ企業は、国内のみならずアメリカや中国など5か国に展開しており、年間売上高は約393億7千万円に上っている(2023年3月期決算)。
カプセルトイ企画を主導したのは、営業企画室EC推進グループ グループ長の金川健太朗さん。新たなチャンスがもたらされるごとに転職を重ね、オークラ輸送機からはEC部門の飛躍を目指す立役者として白羽の矢が立った。
「カプセルトイは初めて作りましたね。オークラとしても初めて」と金川さんは明るく笑う。着目したきっかけは、ECの商品開発プロジェクトでの社内アイデアコンテストだったそう。
「プラモデルが提案されて。でも、色々調べると『難しそうやな』と感じて、ガチャガチャならできるかも……と」(金川さん)
BtoB企業にとっては意外とも言える選択肢。金川さんは、「BtoBの商材は限られたところでしか使われず、ブランドや商品の広い認知が難しい。しかもコンベヤは間接材のため、一般の方は、商品が手元に届くまでの間に使われていることを知らないことが多い」とした上で、企画決行までの経緯をこのように語った。
「間接材なだけに認識されにくいのですが、テレビのスポーツエンタテインメント番組の障害物や、テーマパークのアトラクションにも用いられているなど、実は色々なところで活躍しています。ネット通販の世界でも、マテハンのコンベヤが無いと、『ワンクリックで明日届きます』という世界が実現できない側面があるのに、マテハン・物流業界自体が注目されていない。そこで、どんな風にしたらいいかと考えたとき、広く知られる商材でありおもちゃでもあるカプセルトイは面白いと思いました」(金川さん)
アイデアは浮かんだ。明確な目的を持って幅広い人脈を経由して出会ったのが、のちにパートナーとなるTOYS SPIRITS(本社:東京都府中市)だった。