奈良の師走を彩る伝統行事「春日若宮おん祭」(国指定重要無形民俗文化財)にちなんだ展示「特別陳列 おん祭と春日信仰の美術―特集 春日の御巫―」が奈良国立博物館(奈良市)で開かれている。春日若宮おん祭は、春日大社(同市)の摂社、春日若宮の例祭として1136年に始まったとされ、本年で888年目。今年は15~18日、春日大社と周辺でさまざまな芸能を捧げる祭礼が行われる。
展示は同祭に合わせた恒例企画で、今年のテーマは、祭で神楽を舞う「御巫(みかんこ)」(=みこ)。御巫が実際に着用した装束や儀式で使われた道具類のほか、絵巻や工芸品など45件を公開している。
古くから神楽を奉納してきた御巫は、中世から近世にかけては、春日若宮の拝殿で民衆の祈りを神様に伝える役割も担っていた。その関係性がよく分かるのは、春日明神の霊験を描いた絵巻「春日権現験記絵(春日本)」(江戸時代)。鎌倉時代に作られた絵巻を忠実に写した模本で、第十の巻には、春日若宮の拝殿で神様に願う人々とともに、鈴を持って舞う御巫、箏を弾いて神楽を上げる御巫が描かれている。おん祭が行われてきた地域に根付く信仰の様子を伝える貴重な資料だ。
近世におけるおん祭を時系列でつづった「春日若宮御祭礼絵巻」(17世紀)も見どころの一つ。上中下巻から成り、上巻は祭前夜までの行事、中巻は祭礼関係者が練り歩く「お渡り式」、下巻は神事のクライマックス「御旅所(おたびしょ)祭」を描写。「遷幸(せんこう)の儀」で、榊(さかき)の枝を持った大勢の神職が若宮様を囲んでその姿を隠し歩く絵からは、人々のあつい信仰心が伝わってくる。
御巫が実際に身に付けた装束は特別な祭礼に用いる二人舞用で、赤白交互の八枚襟(はちまえり)に長袴、舞衣(まいぎぬ)を合わせたもの。額上に差した、藤の花を造花で表したかんざしが特徴的だ。
そのほか神の使いである「神鹿」を繊細な筆致で描いた「春日鹿曼荼羅」(重要文化財・鎌倉時代)、平安時代に奉納された国宝の太刀を基に、制作当初の模様と輝きをよみがえらせた復元模造品「金地螺鈿毛抜形太刀 復元模造」なども紹介。