パーマ、ロングスカート、濃い目のメイク……日本独自の不良カルチャー「スケバン」はどのように始まり、若者たちに普及していったのでしょうか? 昭和の不良映画や楽曲をひもとき、シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美がその起源にせまります。
※ラジオ関西『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』2023年11月24日放送回より
【中将タカノリ(以下「中将」)】 昭和のカルチャーや音楽について語るこの番組で、今回は当時の音楽や映画を紹介しながら日本独自のカルチャー「スケバン」について深掘りしていきたいと思います。
【橋本菜津美(以下「橋本」)】 なんとなくのイメージはあるんですが、正確にはどういうものなんでしょうか?
【中将】 いわゆる不良少女全般を指す言葉として捉えておけば問題ないと思います。
【橋本】 めっちゃスカート長くて、棒とか持っているイメージです(笑)。
【中将】 強めのパーマをあてて、化粧も濃くてね(笑)。でも、それも一つのスケバン像ですが、1970年代半ばから1980年頃にかけて、カルチャーが不良中高生に普及する中で成立したスタイルのようです。初期のスケバンはもっとファッショナブルで時代の最先端を行く存在でした。
【橋本】 なんと! 初期のスケバンはどんな人たちだったのでしょうか?
【中将】 まず「スケバン」という言葉の成り立ちですが、「スケ」は「女性」を指す俗語。「スケ」の「番長」だから「スケバン」となり、やがて不良少女全般を指す言葉になっていったという説が有力です。初めは一部の若者の間だけで使われていたのですが、1971年に『女番長(すけばん)ブルース 牝蜂の逆襲』という映画がヒットしたことで全国に普及します。
【橋本】 すごいタイトルの映画……「女番長」と書いて「スケバン」なんですね(笑)。
【中将】 「ポルノ女優第1号」として売り出され人気絶頂だった池玲子さんの主演映画として制作された作品で、池さんら女性キャストのブーツ、パンタロンにトップレスというファッションやオートバイセックス、過激な暴力描写が話題になります。八田富子さんが歌った主題歌『女番長ブルース』もやさぐれたブルース演歌でたまんない仕上がりですね。
【橋本】 現代のスケバンのイメージとは全然違って最先端な感じですね! でもファッションやストーリーは過激で斬新なのに、なぜ主題歌はこんなにドロドロした演歌調なんでしょうか?
【中将】 制作陣がおじさんだったからじゃないでしょうか。当時、東映の社長だった岡田茂さんの肝いりで制作されたんですが、コンセプトはそれまで成功例のあったヤクザ映画とポルノ映画をミックスして、表面だけ最先端のカルチャーをまとわせたって感じで、言ってしまえば雑なんですよ(笑)。その雑さが一つの魅力でもあるんですが……。
【橋本】 なるほど(笑)。でも確かに興味を持つ層は広がりそうです。
【中将】 若者文化をおじさんがちょっと誤解して広めちゃったわけですが、カルチャーとしては深みを増したかもしれないですね。さて、『女番長シリーズ』であらためて脚光をあびた池さんですが、ポルノ的な演出に嫌気がさし、1972年に突如歌手転向宣言をしてしまいます。シリーズ3作『女番長ゲリラ』(1972)では代わって杉本美樹さんが主演を演じ、主題歌も歌いました。それが『女番長流れ者』(※読みは「すけばん・ながれもの」)です。