役所広司が扮するトイレ清掃員の日々をドイツ人監督ヴィム・ヴェンダースがドキュメンタリーのように撮影しました。映画『PERFECT DAYS』が12月22日(金)、公開されました。
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東京・下町の木造アパートにひとりで暮らす60代の男・平山が主人公です。平山の仕事は渋谷の公衆トイレの清掃員。平山は毎朝、夜が明ける前に近所のお年寄りが掃除する竹ぼうきの音で目を覚まします。少しのあいだ天井を見つめたあと、起きあがって布団を畳みます。歯を磨いて、ヒゲを整え、清掃のユニフォームに着替えます。アパートの駐車場にある自動販売機で甘い缶コーヒーを買って、朝食の代わりにしています。毎日、同じように支度をして、軽ワゴンに乗って渋谷へ出かけます。
クルマには掃除の道具がぎっしり積まれています。平山は昔のシブいロックが好きで、仕事場へ向かう車内でカセットテープをかけています。カーステレオからアニマルズの「朝日のあたる家」が聴こえてきました。平山は、渋谷にあるちょっと変わったトイレをいくつもかけ持ちしながら、黙々と掃除しています。昼休みには、公園のベンチに座ってコンビニで買ったサンドイッチを食べます。このときに眺める木漏れ日を平山は気に入っています。
平山はトイレの掃除で、自分で作った道具を使って徹底的に清潔にします。手際がよく仕事熱心な平山に、若い同僚タカシが言います。
「平山さん、やり過ぎっす。どうせ汚れるんだから」
タカシは調子が良くていい加減な若者ですが、平山はどこか憎めないと感じていました。
「平山さんってなんでこんな仕事、そんなにやれるんですか? あ、別に答えてほしいわけじゃないす」
平山はトイレの掃除を全て終えると、電話で会社に報告し、いつもの道をクルマで戻ります。夕方まだ明るいうちにアパートへ帰り、開店時刻と同時にいつもの銭湯に浸かります。地下鉄の通路に直結したいつもの居酒屋でいつものメニューを頼み、家に帰って布団の上で読書しながら寝落ちします。
翌朝、平山はまた竹ぼうきの音で目を覚まします。規則正しいルーティンの日々です。週末は、近所のコインランドリーで洗濯。アパートに戻り、自分の部屋の畳に濡らした新聞紙をちぎって、撒いて、ほうきで履いて掃除します。そのあとカセットテープのコレクションから好きなアルバムを選び、ラジカセで聴きます。古本屋で買った文庫本を読みながら、うたた寝します。
こうした中、姪っ子のニコが母親とケンカをしたとして、十数年ぶりに平山のアパートを訪ねてきます。家出をしたようです……。