免疫がほとんどない育海さんは、新型コロナウイルスに感染すると、身体へのリスクが非常に高い。ここ数年は母親の智子さんともども、まさに“命がけ”の生活が続いている。思うように街頭での募金活動ができなかった。
でも、諦めたくない。「僕だけが、苦しんでいるんじゃない。さまざまな難病と闘う患者さんに、『明るい光』が見えたら、生きる希望が芽生えるかも知れない」。その光や希望が、最先端の研究による治療薬や治療法の出現だ。
「微力ながら、iPS細胞研究所を応援していきたい」。みんなと早く光を見出したい。願いはただひとつ。
■「何も知らなかった…」そこから始まるFOPへの理解
そして、関西の高校生による活発な支援が頼もしい。12月21日には阪急電鉄・西宮北口駅、宝塚駅前(兵庫県西宮市・宝塚市)に育海さんの等身大パネルが登場、私立・仁川学院高校(兵庫県西宮市)の生徒らが難病研究の重要性を訴え、募金活動を行った。
冷え込む西宮北口駅のペデストリアン・デッキ。最初は恥ずかしくて募金を呼び掛ける声が出せない。「どうしよう…」。しかし、募金を投じるが1人、2人と立ち止まるようになり、そんな心配はすぐに消えた。
「ありがとうございます!」生徒たちの声に張りが出てきた。その声が遠くまで聞こえるようになり、また1人、2人と募金の輪が広がっていく。
仁川学院高では校内で3日間、この街頭募金で1日、生徒会が中心となって募金活動した。生徒会長の松原蓮空(れく)さん(2年・17)は、宝塚駅前に立った。「FOPがどういう病気なのか知らなかった。まずは知ることから始まった。そうしないと、募金の際に学校の友人や街行く人に説明できないから。そして、この活動で知ったのは“人の温かさ”。たくさんの人に支えられているんだと実感した」と話す。
西宮北口駅では副会長の高橋光誠さん(2年・17)が、「治療への糸口はなかなか見つからないと聞いて、『育海さんは、さぞ苦しいのだろう』という先入観があったが、(11月に育海さんに会う機会があり)とても元気で前向きなところに強さを感じた。僕たちに元気をくれた」とほほ笑んだ。
今年は、こんなエピソードがあった。12月になって、須磨学園(神戸市須磨区)の生徒会が、兵庫県立加古川東高校(兵庫県加古川市)の生徒会に募金活動の輪をつなぎ、急きょ、加古川東高校も、12月18~19日に校内で募金活動を行った。
生徒どうしのつながりで、伝え聞いた生徒が、担当教諭に「193募金」の企画書を出して学校側の許可を取ったという。
このような活動が来年度も継続できるように後輩に引継ぎ、「加古川市内のほかの高校の生徒会にも呼び掛けたい」との嬉しい言葉もあった。
育海さんと高校生たちの思いが、街行く人々の共感を呼び、多くの募金となり、今年も全額を京都大学iPS細胞研究所に寄付した。
4年ぶりに開かれた研究所からの感謝状贈呈式。寒い中、街頭で募金活動した高校生たちも招かれた。