「ヒロインを目の奥10センチで見て」　監督の難題に応えた山田涼介　浜辺美波共演『サイレントラブ』

2024/01/24

　声を出せない青年と視力を失った音大生が、静かに気持ちを通わせる純愛ラブストーリー。映画『サイレントラブ』が1月26日（金）に公開されます。

☆☆☆☆

　主人公は、喋らない青年・沢田蒼（さわだ・あおい）。蒼は、横浜音楽大学でごみの収集、清掃、設備の保守などを受け持つ会社の従業員として働いています。蒼の喉には大きな傷があり、声を一切出さない生活を送っています。

　蒼が大学の屋上で仕事をしていると、階段を上がって女子学生がやってきました。屋上の手すりを乗り越えて飛び降りようとするのが分かり、蒼は落下する寸前で止めました。彼女はこの音大のピアノ科に通う甚内美夏（じんない・みか）です。先日、不慮の事故に遭って視力を失いました。美夏はピアニストになるという夢を持っていて、自分の将来に絶望して飛び降りようとしたのです。追いかけてきた大学の職員が美夏を連れていきました。キャンパスは日常に戻ります。

　ある日、蒼が旧講堂の前で樹木の伐採作業をしていると、美夏がやってきます。旧講堂にある古いピアノを弾きに来ていました。事故の影響で手に痺れが残る美夏は、うまく演奏することができず、感情が乱れてつまづき、転んでしまいます。蒼は助けようと、そっと杖を渡しました。

　何日か経ち、蒼は自転車に乗って出勤する途中、美夏が母親と言い争っているのを見かけます。美夏は「ピアノの練習を1日も休みたくない」「夢をあきらめたくない」と言って、目が見えないのに大学へ通うのは危険だからと止める母親を振り切ろうとしています。

　美夏は「ひとりで大丈夫だから」と、大学へ向かって歩き出しました。蒼は美夏を守るように、数メートル後ろを歩きます。蒼は美夏に分からないように付かず離れず大学までの道のりで障害物をよけ、通行人を誘導して道を開けてやりました。

　その日から蒼は、美夏のために旧講堂の鍵を開け、彼女がピアノを演奏するのを窓の外から眺めています。彼女の奏でる音色に聴き惚れる蒼。こうした中、美夏が蒼の存在に気づきました。

「いつもここの鍵開けてくれるのはあなたですよね」

「……」

「私の質問に、手の甲をたたいて答えて。イエスなら1回、ノーなら2回」

　美夏は、蒼のことをピアノ科の学生だと勘違いしています。

「私は甚内美夏。あなたは？」

　蒼は美夏に名前を尋ねられ、彼女の手に指で書きました。

「蒼さん、いつかあなたのピアノも聴かせてね」

　美夏にこう言われた蒼は戸惑います。

　別の日。蒼は非常勤講師の北村がピアノを演奏しているのを聴きました。蒼はスマホの音読機能を使って、北村に話しかけます。

「俺の代わりにピアノ弾いて。金払う」

北村は有名な音楽家の息子なのですが裏カジノに通っていて、借金を抱えています。蒼のフリをしてピアノを弾いて欲しい、という依頼を1回5万円で引き受けました。蒼になりすました北村は美夏の前で見事な演奏を披露し、美夏を喜ばせました。美夏を見て蒼はホッとします。蒼は夜もアルバイトをする生活を送りながら、何度も何度も北村に代理演奏を依頼します。不器用な蒼は自分の将来への希望を捨てていて、美夏へ「夢を叶えて欲しい」という願いを抱いていました……。

『ミッドナイトスワン』で知られる内田英治がオリジナル脚本・監督を手がけた最新作です。主人公の蒼を演じるのは山田涼介です。美夏役が浜辺美波。北村は野村周平です。

　声を出さない青年を演じる山田は喋らない分、目の芝居に注意深く演技したそうです。「目の奥10センチで美夏のことを見てほしい」と監督に言われたことを本人が明かしています。山田は美夏と蒼の距離が縮まる前のシーンが好きで、「蒼は美夏のことをちょっと気になっている段階で、生きる手助けをしてあげる。美夏は怖がりながらも『この人は何だろう？』って思ってる、その絶妙な距離感・過程が好きですね」と語っています。

　視力を失いながら夢をあきらめない美夏を演じる浜辺は、監督から最初に「美夏として平坦なセリフの言い方をしてほしい」と指導されたことを打ち明けています。目の見えない演技については「目の高さや方向を違えてみたり、1点を見つめてしまうと角度によっては見えているようになってしまうので、あえて少し外してみたりなど最初は苦労しました」と語っています。

　内田監督は、俳優の表情や気持ちの変化だけでストーリーが進み、優しさや怒りや悲しさが音楽で静かに奏でられる作品にしたいと考えたそうです。監督が熱望した久石譲が今作のオリジナル楽曲を手がけました。主題歌はMrs. GREEN APPLEの『ナハトムジーク』です。