「100パーセント、メイドインジャパン」の商品を、島根の地から世界へ……。島根県での里山再生の活動を通し、日本の伝統工芸における後継者問題の解決に取り組んでいるデザイナーが、ラジオ番組で現在の取り組みや今後への思いについて語った。
ラジオ番組『としちゃん・大貴のええやんカー!やってみよう!!』に電話出演したのは、デザイン事務所「合同会社シーラカンス食堂」の代表(CEO)で、デザイナーの小林新也さん。
親と祖父が表具師(ふすま・障子などを仕立てる職人)だった影響で、子どもの頃から日本文化やモノづくりに触れて育った小林さんだが、中学生になる頃、表具の需要が減り始めたことに危機感を抱いたという。そのなかで、「モノを考えたりするのが得意」ということをいかしてデザインの道へ進んだ小林さんは、デザインの分野から伝統文化や伝統産業にかかわるべく、大学卒業後に地元の兵庫県小野市でシーラカンス食堂を設立した。
シーラカンス食堂は、▼デザインイノベーション事業、▼海外卸事業、▼刃物製造後継者育成事業を展開。なかでも、海外販路開拓と刃物職人の後継者問題に力を入れている。欧米やオーストラリアの展示会を通じて独自の販路を築いていくなかで、「後継者問題の本質的な部分に気付かされた」と、小林さん。「鍛冶屋の世界でも『この鉄はどこから来たのか、この燃料は、生産中に使う資材は……』と考えていくうちに、本当の意味での『メイドインジャパン』とは何なのかを考えるようになった」(小林さん)。
そんな疑問から、たどり着いた答えは、「日本ではほとんどの産業でモノづくりを自給していない」ということ。特にそれが表面化されたのが(新型コロナウイルスの)パンデミックだったと小林さんは言う。新型コロナウイルス流行の影響を受け流通が止まり、モノづくりが停滞する現象を目の当たりにした小林さんは、この問題を解決するヒントが“里山”にあると考え、行動に移していく。
「里山は、人の営みが自然循環の一部となっている。昔ながらの営みが日本ならではの精神や伝統工芸を作ったりするのではないかと思った。まさに表具の世界もそうだったので。そういった里山での暮らしは、今の日本人との暮らしからかけ離れているので、里山にヒントがあるのではと目をつけた。そこで、パンデミック直後に里山で暮らすことを目標にしようと動き出した」(小林さん)
小林さんが行き先として選んだ地は、島根県・温泉津(ゆのつ)。この地域では昔、たたら製鉄によって鉄の生産がされており、「まだその名残りがあり地質も変わっていないこの土地で鉄づくりができないか」と考えた小林さんは、3年前に現地の山を購入した。
「その敷地には、かやぶき屋根の家が再生可能なレベルで残っている。そのすぐ隣に、自分が山から切り出した木で、200平米の製材木工所をたて、そこで山の資源を自給するコアファクトリーをつくっている感覚。来年にはこの施設から他の建築にも挑戦したい。最初はフル自給したもので鍛冶屋工場を建てることが目標。仲間を募っているうちに、僕を含め、みんながスキルアップすると思うし、気が付けば職人になっていくと思う」(小林さん)
そして、里山で暮らすようになった小林さんは、現代の人の暮らしについて次のように語る。
「近代化が進むうちに、人々は山から離れた生活を送るようになっている。便利は大事だが、行き過ぎたのではと思うし、パンデミックがその気付きを早めてくれたと感じている。日本は国土の約80パーセントが山林地帯の国と言われていて、その土地で独自の民族が何千年も暮らしてきた。先人たちは、山との関わり方を間違えると、持続した豊かな暮らしができないと知ったうえで生活していたと思う。それを今の日本人は忘れちゃっているのでは、と考えている」(小林さん)
今後について「一番は、山に関わる人を増やしていきたい」と明かした、小林さん。「過去の流通とデザインの力を発揮しながら、村ごとデザインするというか、そういう取り組みをを島根でやろうと構想している。ゆくゆくは完全自給したものづくりをしたい。燃料・材料・資材を無理なく暮らしの中から生み出して、これが100パーセントの『メイドインジャパン』『メイドイン温泉津』だという商品をハイブランドとして世界に売り出したい」と熱く思いを語っていた。
※ラジオ関西『としちゃん・大貴のええやんカー!やってみよう!!』2023年4月24日放送回