乗客106人が死亡、562人が負傷したJR福知山線脱線事故から25日、19年を迎えた。
今年もJR西日本主催の追悼慰霊式が、慰霊施設「祈りの杜 福知山線列車事故現場」(尼崎市久々知)で開催される。
「祈りの杜」は2018年秋に整備が完了し、2019年の慰霊式から、それまでの「尼崎市総合文化センター・あましんアルカイックホール」から場所を移して行われたが、遺族や負傷者にとって、この場所への思いはさまざま。「慰霊式は事故現場で開くのが本来のあり方だ」「『なぜ、この場所で命を落とさねばならなかったのか』と亡き娘が問いかけてくる。それが再発防止への誓いだ」との意見もあれば、「この場所に亡くなった人はいない。それぞれの心の中で生きている」と考える人もいる。「1人の被害者として、慰霊式でほかの被害者と会い、ともに『生きて行こう』という気持ちを新たにしたい」、「本当は一番行きたくない、つらい場所だが、私の人生を変えた一番忘れられない場所だ」と思いを語る負傷者もいる。
そして、事故の当事者はみな、「目を閉じれば、あの青空を思い出す」と話す。
25日は事故発生時刻の午前9時18分前後、JR西日本の長谷川一明社長ら役員らが電車が激突したマンション前で黙とう。追悼慰霊式では遺族や負傷者らが犠牲者を悼み、同社幹部は安全と再発防止への誓いを新たにする。長谷川社長が「お詫びと追悼のことば」を述べ、遺族や負傷者、来賓、JR西日本役員が献花する。
JR西日本は、事故現場でもある式典会場「祈りの杜」への入場は午後3時30分まで、遺族や負傷者に限定する。また事故現場へ足を運ぶのがつらい遺族らのために、兵庫県伊丹市にオンライン中継会場を設ける。
そして午後3時30分から午後8時までは、一般参列ができるようにする。
事故の風化が懸念される中、JR西日本は2021年、大阪府吹田市の社員研修センターに整備する新施設での事故車両や、事故現場に残されていた遺留品約1100点についての保存方針を遺族や負傷者に伝えた。損傷が激しく復元が困難な1~4両目は部品に裁断し、原形をとどめている5~7両目はそのまま保存するという。新施設は2025年度の完成を目指している。
現在の計画では、損傷が激しい1~4両目は部品ごとに整理して棚に収め、原形をとどめている5~7両目は連結した状態で配置するという。事故の痕跡が残るレールや枕木、電柱も展示し、事故当時の写真を実寸大でスクリーンに投影することも考えている。内部を一般公開するかどうかについては検討課題としている。
1985(昭和60)年の日航ジャンボ機墜落事故では、羽田空港の安全啓発センターで機体の残骸や部品などを公開するまで21年の歳月を費やした。
JR西日本では、全社員約2万5千人のうち、福知山線脱線事故後に入社した社員が約1万7千人となり、全体の7割に達した。安全に関わる研修や事故現場の見学などを通して教訓の継承につなげているが、事故当時を知らない社員が指導役を務める機会も増え、風化防止の取り組みは年々難しくなっている。