子どもの命を奪われた親の悔しさは、何年経っても消えることはない。「将太は、殺されるために生まれてきたのではないのです。私たちは遺族になりたくてなったのではないのです。私たちが完全に立ち直ることができるのか、わかりません」。遺族が前を向き、新たな一歩を踏み出すためのエネルギーは相当なものだ。
そんな時、ある人の一言が響いた。「私たちも、笑っていいんだよ。泣きたくなったら、いつでも泣いていいんだよ」。そんな“寄り添い方”について敏さんは「手を差し伸べて、引き上げてくれるような感覚」と表現した。
この日、敏さんが最も言いたかったのは、こうした寄り添い、愛情、優しさだった。
これまでに数多くの講演で思いを伝えてきた敏さん。兵庫県警察学校・大講堂での講演は、実に8年ぶりだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
警察官に課せられた責務は、犯人を逮捕することや、地域の安心・安全を守ることだけではない。
兵庫県警察学校・初任科生の寺田汐音(しおん)さんは、「犯人逮捕までの10年10か月、遺族にとってどれだけ大変だったのか想像もつかない。警察官として遺族に寄り添い、あきらめず、必ず逮捕するんだという気持ちが、被害者や遺族の気持ちを救うのだと感じた」との感想を持った。
また、田中大博(まさひろ)さんは、「遺族には絶対に癒えることがない“心の傷”があることがわかった。警察官として、市民の方々にどのように接するべきか考えさせられた」と話した。