「 最近、めっきり季節感がなくなった。コロナ禍で外に出なくなったのが原因かも知れん。世の中、賑わいは戻っても、一度失われたものを取り戻すには時間がかかる」。
柴田提灯店(兵庫県姫路市大塩町東之丁)の主人・柴田幸男さん(91)は話す。
そして、単純そうで難しい「提灯づくり」の継承に精を出す。
作る提灯の数は、最盛期で年間に約千個。元々は塩田仕事に従事していたが、太平洋戦争後に“提灯屋”にくら替えした柴田提灯店では、世間の生活様式が変わり、徐々に発注も減った。
幸男さんは、「一番大きい提灯で、高さ1メートルはあるよ。一定の大きさしか見栄えはせんけどね。世代が変わると、お盆のとらえ方もだんだん薄れてくる。提灯の作り手も、手の込んだことを好まなくなった」と嘆く。
ただ、「提灯はオートメーションで大量生産するものではない」と言い切る。
毎年、10月14・15の両日に地元・大塩天満宮で開かれる例大祭「秋祭り」。
コロナ禍で3年の中断を経て、昨年(2023年)は祭りらしくなり、徐々に派手になっていくのが嬉しいと話す。
幸男さんは25歳の孫、麻央さんに声をかける。「文字の下書きの線を越えたらあかん」。
提灯の発注は年によって増減があるが、これからがかき入れ時。「船中」という赤文字に筆を入れる麻央さん、すべての神経を集中させる。
「難しい。文字をかたどった線(枠)を超えて筆を入れるとダメだから」。
幸男さんは、「季節感がなくならないよう、お盆が終わると秋の祭りに向けて気持ちを高める。こうして四季を感じるんやな。そこを目指して頑張らないと。息子や孫に伝えなきゃいけないことはまだまだある」と話す。