人々の生活の中に身近に存在する虫。古来から愛でたり、声を聞いたり、暮らしの中に息づく一方で、鬱陶しい存在であったり、神仏のように崇められたり、化け物として畏れられることもあった。日本の歴史・文化の中に様々な形で登場する「虫」をテーマにした特別展「虫展」が、市立伊丹ミュージアムで開かれている。2024年9月29日(日)まで。
市立伊丹ミュージアムは、芸術・文化・歴史の総合的な発信拠点として、2022年にリニューアルオープンした。「各分野に共通するテーマは何かと考えたところ、虫だ!と。館長は伊丹市昆虫館の元館長ですし、昆虫館にも協力をいただきました」と同館の岡本梓学芸員。美術で表現される虫、虫が主人公の物語絵巻、虫をとことん観察して描かれた図譜、人のお腹の中で悪さをする虫、妖怪として畏れられた虫など、江戸時代を中心とする多彩な分野の作品資料約140点を展示。岡本学芸員は「市立伊丹ミュージアムでしかできない変わり種を集めました。虫のフルコースです」と話す。
江戸時代に描かれた図譜。細部まで丁寧に描かれている。当時、学者だけでなく大名や武士も虫の図譜である「虫譜」をこぞって作っていたという。「綺麗な図譜を作りたいから、描き方だけでなく虫の生態も学び、時間と顔料をたっぷり使って描いている。そして描きためた図譜を持ち寄ってサークルのような勉強会も開いていたそうです。面白い時代でした」(岡本学芸員)。
虫に関する文化が広がったのも江戸時代。絵巻物『玉むし物語』は、美しい玉虫のお姫様をめぐる「虫」たちの恋争いを描いている。岡本学芸員は「お姫様にフラれた虫たちの恋の歌を作ったり、当時の人たちは虫たちが人間と同じように心や感情を持っていて、共に暮らす存在だと思っていた。そんな日本人の感性は他にない」と分析する。
一方、「腹の虫」も展示される。九州国立博物館が所蔵する戦国時代の鍼術の秘伝書に描かれている、人の身体の中に巣喰って病を起こすと信じられていた虫で、「例えば熱が出たらこの虫のせいというようなイメージで描かれている。もちろんリアルに存在する虫ではありません。とはいえ想像力豊かに描かれています」(岡本さん)。