日常の奥に潜む非日常を描き、多くのアーティストに衝撃を与えた画家デ・キリコ。その約70年にわたる画業を、テーマごとに紹介する大回顧展が、神戸市立博物館で開かれている。2024年12月8日(日)まで。
イタリア人の両親のもと、ギリシャで生をうけたジョルジョ・デ・キリコ(1888〜1978)。20世紀を代表する画家であり、後に形而上(けいじじょう)絵画と名付けた1910年代の作品は、サルバトール・ダリやルネ・マグリットといったシュルレアリスムの画家をはじめ、多くの画家に衝撃を与えた。今展では、デ・キリコの約70年に及ぶ画業を、「イタリア広場」「形而上絵画」「マヌカン」などのテーマに分けて紹介するほか、彼が手がけた彫刻や舞台美術も展示する。
デ・キリコの絵画は、どこか不思議だ。それは歪んだ遠近法が用いられていたり、脈絡のないモティーフが配置されていたり……見ている人の目を釘付けにする。1910年代に生み出した新しい絵画「形而上絵画」は、日常を描きながらその奥に潜む非日常を描いており、デ・キリコの代名詞ともなった。後にシュルレアリスムに大きな影響を与えることとなる。
特徴的なモティーフのひとつである「マヌカン(マネキン)」を描き始めるのは1914年、第一次世界大戦勃発後のこと。デ・キリコはマヌカンを理性的な意識を奪われた人間として描くことで、見る人に、多くの人命が失われる絶望的な状況の戸惑いと無力感を与えた。また当時、デ・キリコ自身が抱えていた心理的な状況や危機感を表しているのかもしれない。『予言者』に描かれているマヌカンは、イーゼルを前にしており、デ・キリコ自身の姿とも考えられている。
1920年代に入ると、従来のマヌカンに加え、新たな主題にも取り組むようになる。本来は外にあるはずのものが室内にあったり、その逆だったり・・・ちくはぐで、不穏な雰囲気を作り出すようになる。その後、伝統的絵画の技法に興味を持つようになり、古典絵画への様式へと回帰。晩年は新しい形而上絵画を描き、新境地を開くなど、90歳で亡くなるまで創作を続けた。
今展では年代によって変わる画風や、その唯一無二の表現力を見ることができる。また、デ・キリコにスポットを当てた展覧会はこれまでにも日本で開催されてきたが、今回はかつてない規模で、関西での回顧展は約20年ぶりとなる。