時間・空間を作品に綴じこめる 作家活動60年の軌跡がここに 今井祝雄展 芦屋市立美術博物館 | ラジトピ ラジオ関西トピックス

時間・空間を作品に綴じこめる 作家活動60年の軌跡がここに 今井祝雄展 芦屋市立美術博物館

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 1954年に芦屋で結成された前衛美術グループ「具体美術協会(具体)」。1964年の第14回具体美術展に初出品し、翌年、最年少作家として「具体」の会員となった今井祝雄(いまい・のりお)の、美術館では初めての大規模個展が、芦屋市立美術博物館で開かれている。2024年11月17日(日)まで。

『ウォーキングイベント  / 曲がり角の風景』1977年 タイプC プリント、地図 作家蔵
『ウォーキングイベント / 曲がり角の風景』1977年 タイプC プリント、地図 作家蔵

「『具体』というと、吉原治良や白髪一雄、村上三郎などを思い浮かべる人が多いと思いますが、彼らはいわば第1世代。今井祝雄は第3世代に当たります」と話すのは、芦屋市立美術博物館の大槻晃実学芸員。会場には、現在も創作活動を続ける今井の、最新作から初期の作品、関係資料など約100点が展示されている。「初期の作品から時代順に作品をたどっていくような回顧展ではなく、今井さんがその時代に感じたことをどのように作品で表現しているのか、見ている人自身に発見してもらいたい」という。

 今井は「こういう作家だ」と、一括りにできない作家だという。その時その時に関心を持ったことや疑問に思ったことについて、行動に移す。その表現方法(メディア)は、映像だったり写真だったり造形だったりと様々だが、根底にある「空間」「時間」「現象」「存在」といった人間の根源的なテーマは変わらない。作品を作ることが目的ではなく、「その行為」が結果として作品として残っている。

『瀑布-ビデオの時代』2024年 ビデオテープ、映像、カセットケース 作家蔵 本展のための新作
『瀑布-ビデオの時代』2024年 ビデオテープ、映像、カセットケース 作家蔵  本展のための新作

 最新作は、芦屋市立美術博物館が持つ空間・高さ14メートルの吹き抜けを活かした『瀑布ービデオの時代』。VHSのビデオテープ(の中身)を2階から滝のように流している。これらのテープには、「テレビで放映された映画」が録画されている。が、もう見ることはできない。そしてテープの「滝」には、アナログテレビの「ホワイトノイズ(砂嵐)」が投影されている。こちらももう見ることはない。これらを「封印されたもの」として作品にした。

 音は、本来は聴くものだが、可視化した作品も。オーディオテープをぐるぐる巻きにした『おとだま』や、SPレコードを積み上げた『回るケルン』。そして『Two Heartbeats of Mine』は、1975年と1976年に収録した今井自身の心臓の音だ。向かい合わせに接した2基のスピーカーが、今井自身の心臓の高さの位置に配置され、鼓動を刻む。音と共に、その動きも見ることができる。まるで心臓が動いているように。大槻学芸員は、「心臓音は、表現するもの、作り出すものではなく、その人にしか生み出せないもの。また普通は聞こえることがない。この作品はある意味自画像とも言えます」と解説する。

『おとだま』 2020-2021年 オーディオテープ(リール108巻) 作家蔵 不要不急の外出を制限されていたコロナ禍で制作
『おとだま』 2020-2021年 オーディオテープ(リール108巻) 作家蔵 不要不急の外出を制限されていたコロナ禍で制作
『Two Heartbeats of Mine』1976年 心臓音(1975年 / 1976年)、スピーカー 作家蔵
『Two Heartbeats of Mine』1976年 心臓音(1975年 / 1976年)、スピーカー 作家蔵

 自画像というと、1日1枚、自身のポートレートを撮影した『デイリーポートレイト』がある。1979年5月30日から、毎日撮り溜めたもので、前日に撮った写真を手にした今井自身が収められている。「自分をものさしのようにして撮影することで、時間を積層している」と大槻学芸員。初めての撮影から45年が経った今も撮影は続いている。会期中も今井から写真が届き、学芸員が展示に加えているという。

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