葛飾北斎や喜多川歌麿の名品をはじめとする美麗な春画を集めた展覧会「美しい春画―北斎・歌麿、交歓の競艶―」が細見美術館(京都市左京区)で開かれている。日本の美術館では初公開となる北斎肉筆の傑作や、初めて里帰りを果たした優品22点を含む、選りすぐりの約70件を紹介、春画ならではの美を堪能できる貴重な機会だ。
「春画」とは、人間の性愛の営みを描いた絵画。江戸時代に流行した浮世絵の一種で、「笑い絵」などとも呼ばれ、大名から庶民まで身分・性別を問わず、広く親しまれた。一方で、火事から身を守る縁起物とされ、嫁入り道具として母が娘に託す習わしも。だが明治時代以降、西洋的な倫理観が普及し、春画はタブー視され、秘すべきものに変化した。
アート界での転換点は、2013~14年、ロンドンの大英博物館で催された「SHUNGA」展。春画の高い芸術性が注目され、世界的にファンを増やした。同展に足を運んだ細見美術館の細見良行館長も展覧会に感銘を受け、「日本で開催するなら、巡回先として手を挙げたい」と決意。2015~16年に開かれた日本初の本格的な春画展で、細見美術館は永青文庫(東京都文京区)に続く会場となった。
本展はそれ以来、8年ぶりに国内で開かれた春画展で、今回の会場は細見美術館のみ。展示場は薄暗く、作品ごとに控えめな光量でライトアップされている。作品保護のためなのだそうだが、アンダーグラウンド的な魅力を味わう場としての格好の演出となっている。
最大の目玉は、北斎の《肉筆浪千鳥(なみちどり)》(12図/1810~19年)。作者の最高傑作ともいわれ、男女(女女)がさまざまな姿勢、ダイナミックな構図で密着する。国内の美術館で公開されたのは初めて。2人の端正な面差し、白い顔がほのかに上気した様子、白雲母が残る背景など、細密であでやかな画面が華麗に輝く。展示を担当した伊藤京子・主任学芸員は「春画は基本的に人目に触れることは少なく、しまっている時間の方が長かった。そのため極めて保存状態が良いものが多い。中でも今回はとりわけ美しいものを選んでおり、江戸時代の人が目にした状態に近いものを楽しめる」と語る。