“ファッショントレンドは繰り返される”とよく言われますが、じつはいま、平安時代のファッションがSNSを中心に話題を集めているのをご存じでしょうか?
そのきっかけとなったのが、和装ブランド『MISAMARU』からリリースされた、平安時代の衣装を現代風にアレンジした“平安モード”というシリーズ。仕掛け人でもある、ブランドの代表・稲岡さんに話を聞きました。

――製作のきっかけは?
【稲岡さん】 昨年6月に『MISAMARU』を立ち上げたことを機に、日本の服飾の歴史を一から学び直したのがきっかけでした。
そのなかで出会ったのが、“平安モード”のモデルとなった「狩衣」と「水干」です。おもに、平安時代の貴族や庶民の男性が普段着として着用していました。そのデザインと機能性の高さに心を奪われて「現代の男性のみならず女性にも着てほしい!」と思い、製作を決めました。


――どのようにして製作した?
【稲岡さん】 最初は、博物館や書籍で勉強しながら製作していました。昨年11月に、X(旧:Twitter)に試作品を投稿したところ、「神職の方々が着用されている浄衣などと混同されかねない」というご指摘をいただきました。そこで、「商品を買ってくれた方がそれを着て神社に訪れた場合、神主さんたちにご迷惑をかけてしまうかもしれない……」と思い至りました。そのときまで、現役で狩衣を着ている方がいらっしゃるなんて思ってもおらず、自分の想像力のなさを大変反省しました。
そこからは、神社関係者の方々に取材したうえで製作しようと、背景知識から改めて勉強し直すことにしました。
しかし、商用での取材となるとご協力いただくことがなかなか難しく、多くの神社関係者や神社庁にも断られてしまいました。昔の着物仲間のツテをたどるなどあらゆる手を尽くして、なんとか、京都の有識者や神職の方に直接お話を伺うことができました。
その後、約4か月の取材期間を経て、今年2月末の正式リリースにまでこぎつけることができました。取材期間中、ある神社関係者の方から「苦労したでしょ」とねぎらいの言葉をいただいたときには、本当に涙が出てしまったほどです……。
――苦労して作り上げられた“平安モード”のこだわりを教えてください。
【稲岡さん】 まず、何としても譲れなかったのは“色”です。これは『MISAMARU』のコンセプトでもあるのですが、和装を普段着として楽しんでもらうためには、コーディネイトがしやすい白と黒のアイテムであることが必須だと考えています。
じつは、白と黒という色にこだわらなければ神職の方々の衣装と混同される心配もなく、もっと早く商品化することができました。ですが、時間をかけてでも白と黒で作ることにこだわりました。
もう1つこだわったのが、「狩衣」と「水干」に注目した理由でもある“機能性”です。本来は名前の通り、狩りに行くときにも着られていたほど機能性を重視した衣服です。
今回の“平安モード”においても、袖と胴部分の接続を背中部分だけにするという本来の作りを踏襲することで、腕を抜くだけでノースリーブに切り替えられるという機能面の良さをしっかりと再現しています。