平田オリザさん(劇作家・演出家)のラジオ番組(ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』)に、一般社団法人ピースセルプロジェクト代表理事の高遠菜穂子さんが出演。イラクでの人道支援活動と、演劇的手法を用いた平和構築の取り組みについて語った。

高遠さんは、2000年からタイやカンボジアでのエイズホスピス活動に従事。2003年のイラク戦争後からバグダッドで活動を開始し、おもに医療支援や緊急支援活動に従事してきた。
当初は、無政府状態になっていた戦闘地域での被害者支援、特に病院への医薬品や医療用品の供給が中心だったが、IS(イスラム国)の台頭により状況が一変。折しも、苛烈な攻撃を受けたファルージャにおける先天性欠損症の調査を行っていた矢先の出来事だった。
2013年当時は、イラク戦争開戦から10年が経った年で、ようやく本格的な復興ができる兆しが見えてきたタイミング。高遠さんは、先天性欠損症調査の医療ミッションを受け、病院のレジデントドクターがいる宿舎に泊まり込んで毎朝毎晩生まれてくる赤ちゃんの様子を記録していた。
年末、「年が明けたらまた調査の続きをさせてください」という言葉とともに日本へ一時帰国した1週間後、ISと名乗る人々が占領する事態に。高遠さんは、当時をこのように振り返った。
「一緒に働いていた先生方も、病院や家から逃げざるを得なくなりました。そこから3年間は完全にISの支配下。イラク戦争以降、テロ攻撃や内戦など散々苦しんだイラクですが、さらなる地獄を味わうことになってしまいました。私は、ドホークを拠点にして緊急支援を続けました」(高遠さん)
自身の活動は焼け石に水、なのではないか。そんな絶望感に襲われていたとき、平田オリザさんが取り組んでいた福島県立ふたば未来学園での実践に出会った。東日本大震災と原発事故に関する自身の体験やリサーチをもとに、生徒らが1年かけてつくりあげた演劇は、当事者らも観客として巻き込み、披露された。
経済産業省役が浪江町の町民役に胸ぐらをつかまれているシーンには、思わず目を奪われたという高遠さん。この20年、戦争が生み出す分断を目の当たりにし対話を試みてきたが、困難の極みであると感じていた高遠さんに衝撃が走った。
「たとえば、クルド人とアラブ人、イスラム教のシーア派とスンニー派など、お互いの感情の裏側にあるバックグラウンドを知らなければならない。ふたば未来学園で取材された方々は、俯瞰して“自分”をみていた。演劇的手法は、唯一エンパシーを高めることができるのではと考えました」(高遠さん)





