島を横断する主要道路は1本のみ。その途中に郵便局があるため、日常の移動のなかで自然と郵便局の前を通ることも多いのだとか。さらに郵便局を利用するのは、主に海外からの荷物の受け取りや銀行などからの封書が中心であるため、個人間の荷物の受け渡しは郵便局を介さず直接手渡しされることが一般的だといいます。
私書箱に入りきらない小包などの郵便物が届いている場合は、荷物到着を通知する紙が私書箱に投函されます。住民は窓口にその紙を提出することで、荷物を受け取ることができるのだそう。
「私は実際にパラオに居住しておりましたが、住所がないことに対して、特に不便を感じたことはございません。コロール島は非常に小さく、端から端まで移動しても車で15~20分ほどの距離です。郵便局は島の中心部に位置しており、どこからでもおおよそ10分以内で到着するため、郵便物を受け取りに行くこと自体がそれほど負担にならない環境です」(井口さん)
井口さんは現地のツアーガイドとして勤務しており、お客を案内して離島に渡る機会も多くありました。その際、現地の人から「ついでに荷物を届けてほしい」と頼まれることもしばしば。
井口さんが島に到着すると、荷物の受け取り人が波止場で待っており、その場で荷物を直接渡す……という非常にシンプルかつ信頼に基づいたやり取りが行われていたそうです。
「このようにパラオでは、相互の協力関係に支えられた穏やかで緩やかな社会が日常として根付いています。日本とのギャップを感じたこともありますが、私はその環境を気に入っていました」と振り返ります。
(取材・文=つちだ四郎)




