フィンランドのモダンデザイン界で圧倒的な存在感を放ち、日本にもファンが多いデザイナー・タピオ・ヴィルカラの、生誕110年と没後40年を記念した日本初の回顧展が、市立伊丹ミュージアムで開催されている。2025年10月13日(月・祝)まで。
タピオ・ヴィルカラ(1915-1985)は、1946年にガラス製造会社イッタラのデザイナーに起用されて以来、約40年に渡り第一線で活躍した。ガラス、磁器、銀食器、照明、家具、紙幣など多岐にわたるデザインを手がけ、あらゆる素材に向き合った。その根底にはフィンランドの自然が宿っている。


別荘を構えたフィンランド最北地・ラップランドは、心臓の鼓動が聞こえるほどの静寂と手つかずの原野、氷と雪に覆われた地だったが、ここでの生活でタピオは疲れを癒し、制作へのインスピレーション・エネルギーを得た。『ウルティマ・ツーレ』(ラテン語で「世界の最北」を表す言葉)をはじめとする名作の数々がここで生まれた。
涼しい見た目が特徴のグラスのシリーズ『ウルティマ・ツーレ』。当時の技術ではプレスしたときに凹凸が残ってしまうこともあったが、「氷が解けているような感じやつららのような表現を表面に施したことで、その凹凸をわからなくする効果もあったようです。製造技術と工程を熟知していたタピオならではのアイデアであり、どこから見ても美しい。名品です」と同ミュージアムの岡本梓学芸員は解説する。

葉やキノコ、鳥などの自然をモチーフにした作品も多い。「アンズタケをモチーフにした『カンタレッリ』も名品です」(岡本学芸員)。柄(え)から笠(かさ)に向かっての広がりを吹きガラスで表現している。「当初は柄の部分が細く、縁ももっと広がりのあるデザインだったが、高度な技術が必要なため生産に適した安定感のある形に変わっていった。展示されているのは最初期に製造された貴重なものです」。

タピオのデザイン画と共に、完成に至るまでにつくられた試作品を併せて展示されているものもある。タピオは試作品を自分でつくったという。「製造技術や工程を理解した上で、何枚もスケッチやデザイン画を描き、試作品でさらに完成度を高めてから職人たちに伝えた。その姿勢にはデザイナーとしての責任感が表れている」と、岡本学芸員は話す。





