神戸市灘区に本社を構え、1928年の創業以来、長年にわたって親しまれているコーヒー会社の1つ、萩原珈琲。同社のトップが今、新たな挑戦に取り組んでいる。
同社は生豆の仕入れから焙煎、出荷までを一貫して行い、和歌山や鳥取など100%国産の炭を使う炭火焙煎にこだわる。喫茶店への卸販売を中心に、全国に数多くの取引先を持つ。


そんな老舗を牽引する代表取締役・萩原英治さんが計画しているのが、醤油蔵をリノベーションしたカフェ。2026年4月に開業を予定している。
場所は神戸市北区・八多町。50年以上放置されていた醤油蔵を取得し、現在改修を進めている。これまでの工場は海沿いにあり、地震による津波リスクを考慮して、焙煎機2台を山側へ移すリスクヘッジの狙いもあるという。




八多町を舞台に、萩原さんは壮大な構想を描く。それはカフェを通じた地域の活性化だ。
萩原さん夫妻は、農業や林業、さらに生活資材や食べ物などを扱う「生物資源学」に取り組んできた。その経験から「きっかけがないと人が訪れない場所」だという、三方を山に囲まれた農村地域・八多町への移住を決意。「コーヒーをツールに、自分たちのやりたいことを実現したい」と話し、「カフェを開くことで集客し、多くの人にこの集落を知ってもらうきっかけにしたい」と意気込む。
農村・里山地域の多くは「市街化調整区域」に指定され、秩序ある土地利用や景観保全のため、法律で建築などの開発行為に規制がかけられている。八多町も例外ではなく、商業を営むには「里づくり拠点」としての認可が必要で、そのためには地域住民の賛同や定住・移住が求められる。
それでも八多町に身を置く決断をした萩原さんは、「本当にやりたいことの一つは、その農村の現状を知ってもらうこと。コーヒーとは直接関係ないけれど、10年、15年先に農村がどうなるか。過疎化や耕作放棄地の増加といった課題を、コーヒー好きに限らず幅広い人に知ってもらいたい」と語る。





