六甲山上を会場とした現代アートの芸術祭「神戸六甲ミーツ・アート2025 beyond」。61組のアーティストによる作品の多くは豊かな自然とハーモニーを織りなすが、展示の舞台は屋外にとどまらない。山上にある名建築や廃業したホテルの建物、地域の拠点となっている施設でも、みずみずしいアートが多彩に開花している。会期は11月30日(日)まで。
見どころの一部をおおむねエリアごとに3回に分けて紹介する。
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会場はいずれも六甲山上で、「六甲ケーブル(六甲ケーブル下駅・山上駅)」「天覧台」「兵庫県立六甲山ビジターセンター(記念碑台)」「六甲山サイレンスリゾート(旧六甲山ホテル)」「ミュージアムエリア(ROKKO森の音ミュージアム・六甲高山植物園・新池)」「トレイルエリア」「みよし観音エリア」「六甲ガーデンテラスエリア」「風の教会エリア」の9つのエリアから成る。
■風の教会エリア
「風の教会」は世界的建築家・安藤忠雄の最初の教会建築。1986年に完成し、ホテルのチャペルとして約20年間にわたって使われたが、2007年、併設のホテルが営業を終了、風の教会も閉鎖した。周辺の施設が解体される中、教会だけが建築作品として残された。通常は非公開の同教会で、会期中、「Floating Lanterns」が展示されている。作者の岩崎貴宏は、そこだけまるで無重力空間であるかのように、祈りの場に無数の建築模型の断片を漂わせた。宙に浮かんでいるのは、震災や戦争などさまざまな理由で失われた建築の記憶をルーツとする模型の断片。奥の壁に配置された十字架が断片に宿る人々の思いを温かく包み込む。

近くの宿泊施設「六甲スカイヴィラ」も2022年、新型コロナ禍などを背景に営業を終えた。同施設の本館と別館だった建物も会場となっている。「六甲山芸術センター」という名を持つ5階建ての別館には、各フロア・各部屋で異なる様相のアートが並ぶ。5階は堀尾貞治と友井隆之による、一見、道具類にも見える作品「1ton彫刻までの道程」で、部屋も廊下もおびただしい数の作品で覆われている。2人は2016年から1㎏のオブジェを1000個制作する取り組み「1ton彫刻」に着手。2018年、堀尾の他界後も友井が取り組みを継続、2020年に1000個が完成したという。
1970年代から関西を中心に活躍してきた前衛芸術家、イケミチコは3部屋を使い、「未来」「過去」「現在」を表現した。最初の部屋にはイケの代表作「未来人間ホワイトマン」が登場。未来人間ホワイトマンは21世紀初めにイケが生み出した、人種、性別、宗教の違いや貧富差、戦争などから世界を解放したいと願う人々の姿だ。第2の部屋「昭和は遠くなりにけり」は、市井の人々が映る古い写真で壁と床が埋め尽くされ、第3の部屋では、未来人間ホワイトマンとともに「靴を履いて街に出よう」とのコンセプトによる作品が陳列されている。


六甲スカイヴィラの本館だった建物は、別館を少し上ったところに位置。リゾートホテルの佇まいを残した本館に一歩入ると、人の身長ほどの蝶ネクタイを付けたウサギ(パネル)が出迎えてくれる。田中望の「あなたとは分かり合えないかもしれません」という作品の一部で、よく見るとウサギは射抜くようなまなざし。閉じたホテルに来たという非日常感が盛り上がる。
眺めの良いテラスに1つだけぽつんと置かれているのは高橋銑の「Tin Chair(proof cast)」だ。一見、何の変哲もない4つ脚の椅子だが、誰かが座ると、座った人の尻の形がくっきりと残る。座面に伸縮性の高いなまし錫(すず)を使っているためだ。次の人が座るまで、椅子は前に座った人の“記憶”をとどめる。






