「デマ」や「情報の偏り」を考える 新聞を活用した学び 地域で進む取り組み【兵庫・姫路】

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 スマートフォンを開けば流れてくる、ニュースや投稿といった無数の「情報」たち。だからこそ確かな情報を見極め、自分の考えを育てる力が必要とされています。そうした中、新聞を教育の場で活用する「NIE(Newspaper in Education)」と、ビジネスの現場で活用する「NIB (Newspaper in Business)」という取り組みが広がっています。中心となって活動を進めているのが神戸新聞社の冨居雅人さん。詳しく話を聞きました。

現代は無数の情報に溢れている(イメージ)

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 冨居さんは事件記者や写真記者を経て、編集部門で幅広い経験を積んできました。その中で培った「取材・情報整理・発信」という新聞社ならではのスキルを、地域の学校や企業、自治体に還元する活動を行っています。

 兵庫県姫路市では今年度、新入職員の研修にNIBを取り入れました。研修では実際の新聞記事を教材にしながら、見出しを自分で考えたり、気になる記事について自身の考察を発表し合ったりするワークショップなどを実施。短い言葉で的確に伝える力を磨くと同時に、職員同士が互いの関心や視点の違いに気づくきっかけになったそうです。こうした研修を通して、情報との向き合い方を考える機会も増えています。

今年行われた市職員の研修の様子 (提供:姫路市)
市職員の研修の様子(提供:姫路市)

 さらに冨居さんが注意すべきこととして強調するのは「情報の偏食」です。スマートフォンやSNSでは、「アルゴリズム」という仕組みによって自分の興味のある情報ばかりが表示されやすく、知らないうちに視野が狭くなってしまうことがあります。「好きなものだけを食べていては栄養が偏るように、情報も偏ると考え方がかたよってしまいます。新聞には、自分の関心の外側にある情報と出会う良さがあるのです」と冨居さんは話します。

 フェイクニュースの拡散も現代社会の課題です。コロナ禍で起こった「トイレットペーパーが買えなくなる」という誤情報の爆発的拡散も、実は“善意の共有”から広がったものでした。「悪意ではなく、誰かを想って広げた情報が混乱を生み、『デマ』が『真実』になってしまったのです。だからこそ、一人ひとりが冷静に情報を見極める力を持つことが大切です」と語ります。

情報ひとつで街からトイレットペーパーが消えた(イメージ)

 今年の夏には神戸で「NIE全国大会」が開かれました。「時代を読み解き、いのちを守るNIE」をテーマに全国から1800人以上の教育関係者や新聞関係者が参加し、時代をしっかりと読み解いていく「メディアリテラシー」の力をどう育んでいけばよいのか、フェイクニュースやSNSの影響、災害時の情報発信・共有の在り方など、多様なテーマで議論が交わされました。

 姫路市内からは、豊富小中学校が参加。小学校と中学校の9年間を通して新聞を活用する学びの実践を発表し、学年ごとに段階的に「読む」「考える」「伝える」力を育む取り組みが注目を集めました。また、同市では大人を対象にしたメディアリテラシー講座が生涯学習大学校で開講されます。「新聞を読むことは『目的』ではなく、多様な視点を持つための『手段』。確かな情報をもとに考え、行動する人が増えれば、地域ももっと元気になると思います」と冨居さんは話します。

写真中央:神戸新聞社の冨居雅人さん 左:パーソナリティの加藤聡総合教育監 右:ナビゲーターの洲崎春花
(左から)パーソナリティの加藤聡総合教育監、神戸新聞社の冨居雅人さん、ナビゲーターの洲崎春花

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 情報が容易に得られる時代、多様な視点に触れ自分の考えを深めていく……そうした学びの輪が各地で少しずつ広がっています。

(取材・文=洲崎春花)

※ラジオ関西「ヒメトピ558」2025年11月28日、12月5日放送分より

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