日本近代洋画を代表する画家の1人、小磯良平(1903~1988年)の“幻の名作”「日本髪の娘」(1935年)が、神戸市立小磯記念美術館(同市東灘区)で公開されている。神戸の令嬢をモデルに描かれた傑作で、長く所在不明となっていたが、このほど約90年ぶりに韓国から里帰りした。同館の特別展「小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》」の目玉として3月22日(日)まで展示される。

「日本髪の娘」は、モダンなデザインの着物に身を包み、椅子に腰掛けた日本髪の若い女性を描いた油彩画。漆黒の地に青、赤、黄の鮮やかな流線が施された、大胆な着物の意匠と、物思いにふけるような女性の表情、その姿を橫から眺めた構図が印象的だ。小磯は大阪の高島屋で見つけた当該の着物に強く魅せられ、自ら高価な代金を支払って購入、制作に臨んだ。知的であか抜けた雰囲気の女性像は、当時の神戸のモダニズムを色濃く反映している。同作は1935年、在野の美術団体「第二部会」の第1回展に出品され、高い評価を得た。
制作されたのは、神戸・山本通(現在の神戸市中央区)のアトリエ。モデルは、神戸にある薬品会社の創業者の令嬢で、小磯に絵を学んでいた上田種子さん(1912~2000年)。上田さんの兄が旧制兵庫県立第二神戸中学校(現在の県立兵庫高校)で小磯と同窓だった。切れ長の目と意志を感じさせる表情が印象的な上田さんは、1930年代半ばの小磯作品にたびたび登場、「日本髪の娘」とともに第二部会の展覧会に出品された「踊り子」(1935年、武田薬品工業株式会社蔵)のモデルも務めた。本展では、両作が時を超えて同じ展示室に並んでいる。


第二部会の展覧会後、「日本髪の娘」は李王家美術館に収蔵された。その後日本で は所在を把握できなくなり、長く「幻の作品」とされてきたが2008年、韓国国立中央博物館が李王家美術館のコレクションを紹介する特別展を開いた際、神戸市立小磯記念美術館に連絡。そこで作品が同博物館に所蔵されていることが明らかになった。当時、電話を受けた廣田生馬・神戸市立博物館学芸課長は「最初は状況をよく飲み込めなかった。説明を聞く中で、『日本髪の娘』が現存していたことを知り、大変驚いた。その後ご家族に伝え、深い感動を分かち合った」と振り返る。

展覧会は3章で構成。第1章「小磯良平の画業」では、「青衣の女」(1929年、神戸市立小磯記念美術館蔵)、「リュートを弾く婦人」(1975年、同)などを通して、常に「清らかで気品漂う」人物表現を追求し続けた画家の歩みを紹介している。戦災でアトリエと多くの作品を失いながらも、新たな表現を模索し続けた姿を浮かび上がらせる。第2章「小磯良平の和装婦人像」では「着物婦人像」(1966年、個人蔵)、「舞妓」(1961年、武田薬品工業株式会社蔵)、「大原女」(制作年不詳、神戸市立小磯記念美術館蔵)などが並び、衣装やポーズ、小物まで、細部にも画家の美意識が宿る。モデルの容姿だけでなく、年齢や気性、生活感までも表現しようとした描き手の情熱が伝わってくる。





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