「感情移入しない。マシンになろう」。そう自分に言い聞かせ、感情を押し殺して現場に立った。あまりにも過酷な光景の連続で、今も「思い出そうとしても思い出せない記憶」があるという。一方で、決して忘れられないのが現地の“匂い”だ。
「海の匂い、魚の匂い、どぶの匂い、何かわからないものが腐ったような匂い。あの匂いは一生消えない」
それでも心を打たれた場面があった。避難所で物資を配ると、高齢者たちは段ボールで仕切られたスペースに正座し、深々と頭を下げて礼を述べた。ゴミの分別が徹底され、暴動や略奪も起きない。
「こんな絶望の淵にいるのに、なぜ争わず、助け合えるのか」。米軍兵士から何度も驚きの声が上がったという。「そのたびに思った。『日本は本当にすごい国なんだ』と。世界が評価した、日本人の素晴らしさです」
◆「自分の命は、自分で守る」
2つの震災を通じて阿部さんが伝えるのは、「自分の命は自分で守る」という意識と知識の重要性だ。
「できれば水は2週間分。食料は、おかゆやスープなど、液体に近いものがいい。体が弱っているときでも口にしやすいからです。ビタミン不足になりやすいので、ビタミンCを取れるアメなども役に立ちます」
「緊急避難所の場所を知っていますか。時間があれば、重いリュックを背負って実際に歩いてみてほしい。1本の道が使えなくなることも想定して、う回路も考えておくことが大切です」
「『置く場所がない』と言われることも多いですが、大きな災害が同時多発すれば、誰もすぐには助けに来られない。工夫して備えることが命を守ります」
「もうひとつ、人間、2~3日食べなくても死なないが、寒さだと一晩で死ぬ。水、備蓄などいろいろ大切だが、寒さ対策も忘れないで!」


◆生徒たちに伝えた“Hope”
講義の終盤、阿部さんが生徒たちに伝えたキーワードは“Hope(希望)”だった。
「避難所では、大人たちが『これからどう生きていけばいいのか』と、絶望の中にいました。その一方で、グラウンドでは小学校低学年の子どもたちがサッカーボールを蹴って遊んでいた。状況は分かっていても、『友だちがいる』『遊べる』と笑っている。その姿を見て、『この子たちのために頑張ろう』と思えた」
「皆さんがいるから、大人は頑張れる。そのことを忘れないでください」
阿部さんの話に、真剣に耳を傾け続けた中学生たち。生徒代表は「この会を通じて、生きる理由や学ぶ理由、(防災の)キーワードについて知ることができた。この会で学んだことを家に帰ってもう一度、家族と話します」と述べ、阿部さんに感謝を伝えた。また、生徒の1人は、「防災というのは、毎年の『1・17』で、神戸で起こった阪神・淡路大震災のニュースを見て学ぶことはあるが、このように本当に経験した方から話を伺うことはあまりないので、それがすごく貴重だった。これからも命の大切さ、防災について考えていこうと思った」と感想を述べた。
講義後、「生徒の皆さんの聴く姿勢があまりにも立派で、こちらが緊張しました。思いは伝わったと思います」と手応えを語った阿部さん。今後も語り部としての活動を続けていくという。







