江戸時代を代表する浮世絵師、葛飾北斎(1760~1849年)と歌川広重(1797~1858年)。浮世絵コレクターとして名高い実業家・原安三郎(1884~1982年)さんが蒐集した北斎と広重の優品を紹介する特別展「原安三郎コレクション 北斎×広重」が、京都文化博物館(京都市中京区)で開かれている。それぞれの代表作である浮世絵シリーズのほか、初公開となる江戸時代の肉筆画など計約220件を展示。くっきりとした摺り、鮮やかな色など状態の良さで知られる原コレクションの名品を通して、北斎と広重の手による生き生きとした江戸ワールドが立ち上る。


大胆な構図と躍動感で自然と人間を描いた北斎と、繊細な色彩で四季や天候、人々の営みを詩情豊かに表した広重。同展の最大の見どころは、2人の作風を比較しながら鑑賞できる点だ。たとえば愛知県岡崎市の矢作橋の情景を描いた作品は、長い橋の上を大勢の人が通っている様子は同じだが、橋の形状や背景の山は異なり、まるで別な場所のよう。展示を担当した有賀茜学芸員は「2人の表現の違いを見つけたり、同じところを描いている場合はそれぞれの目線について考えてもらうなどして楽しんでほしい」と語る。
展示は第1章「北斎」と第2章「広重」に加え、「原安三郎の慧眼(けいがん)」と題した特集も。北斎の「冨嶽三十六景」「諸国瀧廻(たきめぐ)り」、広重の「東海道五拾三次之内」「冨士三十六景」など人気の名所絵シリースを展示する。
特筆すべきは北斎の「千絵の海」シリーズ。各地の漁労風俗をテーマとした揃物(そろいもの)で、10図の刊行が確認されているが、現存数は極めて少なく、10図すべてがそろっているのは、確認できる限り原コレクションだけという。いずれの作品も北斎らしい多彩な水の表現とともに、荒波での漁や潮干狩り、捕鯨など、海を重要な食料庫としていた当時の暮らしぶりも読み取ることができる。中でも「総州利根川」(前期展示)は、不安定な舟の上で漁師が全身を使って網を引く様子がリアルに描かれ、網を透かして向こう側の景色が見える、印象的な画面だ。
名所絵が並ぶ中で、シリーズ「百物語」は特に目を引く。百物語とは江戸時代に流行した怪談会のこと。夜、100本のろうそくに火をつけ、人々が順番に怪談を披露し、話が終わるごとに1つずつ火を消していく。最後の1つを消すと怪異が現れるとされていた。北斎が描いた「お岩さん」(前期展示)は、提灯から亡霊が飛び出す歌舞伎の演出から着想したとされるが、お岩の表情はユーモラスで愛嬌がある。また、「さらやしき」(同)のお菊は、井戸の中から長い首を出しているものの、その横顔はどことなくリラックスモード。よく見ると、首は皿が連なる不思議な構造となっていて、北斎の遊び心が伝わってくる。





