世界を翔けるフリージャーナリスト・西谷文和さんが上梓した、「西谷流 地球の歩き方」(かもがわ出版)。2019年1月に出た〈上〉巻ではイラク・シリアを中心に書かれているが、今年4月に発行された〈下〉巻ではアフガニスタン、ヨーロッパ、アフリカ諸国でのエピソードをリアルに描写。⾃ら前線に赴き、ロケット弾、砲弾、銃弾⾶び交う中での迫真・命懸けの取材となっている。
西谷さんが今回の下巻を日本で執筆しているときに、悲報が飛び込んできた。長年アフガニスタンで用水事業を手がけてきたペシャワール会現地代表で医師でもある中村哲さんが凶弾に倒れた。
西谷さんは偶然、2010年アフガニスタン東部のジャララバードで中村さんと出会った。『医者 井戸を掘る』『医者 用水路を拓く』の著者でもあった中村さんのファンであったという、西谷さん。このときの縁から、中村さんの好意で現地の用水路の取材も経験。中村さんのジープに同乗し草木一本生えていない乾燥した大地をひた走り、砂埃を立ててジープが小高い丘を駆け上がったそのとき、西谷さんは「み、み、緑や。緑の大地が広がってる!!」と叫んだ。視線の先は「ガンベリー砂漠」と呼ばれているはずのところであり、驚くのも無理もない。
広大な土地に一本の用水路が走り、そこから枝分かれした何本もの水路によって小麦畑が広がっていたのだ。全長23キロメートルを超える「マワリード用水路」(現地の言葉では「真珠用水路」)によって、なんと25万人もの難民が避難先のパキスタンから帰還してきて、ここに新しい街を作り始めていたのだ。「食べて行けさえすれば紛争はなくなります。武器があるから戦争になる。この人たちはもともと農民ですから、水さえあれば自立して街を作って行けるんです」。
偉大なる事業に感激して立ちすくむ西谷さんに「当然のことをしたまで」と語る中村さん。すると、「サンキュージャパン!!」と、中村さん、西谷さんの姿を見つけて農民たちがあふれる笑顔で握手を求めてくる。「この人こそがノーベル賞にふさわしいよ!」と、通訳も感動していた。この体験から3週間後、「マワリード用水路」貫通式典と中村さんが設計施工したモスクの開所式が行われた。
このような偉大なる平和主義者を襲った悲劇が第一章の「アフガニスタンの片隅で」編に書かれている。前述の中村さんの功績を紹介するとともに、戦地の中で逞しく、強かに生き抜く人々のくらしにスポットを当てている。
「普通のマスコミはどうしても大都市の、大人数の皆が注目しがちな大きな視点で報道・レポートしがちである」と語る、西谷さん。著書の大見出しのヘッドラインには「〇〇〇の片隅で」とつづる。「人間の命に大きいも小さいもない、強いて言うなら(か弱い子ども)を優先的に取り上げたい。そうすることにより世界で今、何が起こっており、何が必要なのかを訴えることができる」。
世界を駆け回る元市役所職員の敏腕(ビール瓶ワン→本人談・笑)ジャーナリストが痛烈な風刺とあふれるユーモアを交えて語る、世界の片隅での出来事。なかには笑いごとでは絶対に済ますことのできない悲劇的なエピソードも、写真とともに掲載されている。
西谷流地球の歩き方〈下〉(かもがわ出版)
http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/na/1087.html