20世紀のフィンランドを代表する「モダニズム建築の巨匠」アルヴァ・アアルトと、公私にわたってパートナーであったアイノ・アアルトの25年間の業績を紹介する特別展「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランドー建築・デザインの神話」が、神戸市中央区の兵庫県立美術館で開催されている。2021年8月29日まで。
アルヴァ・アアルト(1898-1976)は近代建築の父と呼ばれ、これまで日本でも回顧展が開催されてきた。アルヴァの業績とされる多くの作品には、妻であるアイノ・アアルト(1894-1949)の思想が取り入れられているものが多いこともわかっている。今回の特別展では、これまであまり注目されてこなかったアイノにも焦点を当て、2人の25年間の軌跡を、280点の模型やデッサン、写真で振り返る。
2人は「日常にこそデザインが必要である」という思想から、フィンランドの環境の特性に基づき、自然のモチーフを取り入れたデザインで、建築設計のほか、家具、グラスウェアなど、現在も愛される名品を多く残した。
1930年、2人は良質なモダン住宅のデザインについての考えを提示する「最小限住宅展」を開催する。働く女性が使いやすいキッチンや、シンプルで軽量、量産が可能で自らがデザインした家具を配置したコンパクトなアパートの間取りの例などを示した。ここには労働者たちが狭くても快適に過ごせるような工夫が詰まっているほか、「働く女性」であるアイノの考えが多く反映されているという。
初期の代表作であり、モダニズム建築の不動の傑作と言われる結核療養所「パイミオのサナトリウム」。建物だけではなく、音の静かな洗面台や内装、照明器具、ドアハンドルに至るまで、患者がここでの生活を快適に送ることができるよう設計されている。
また、患者のための椅子として開発された「パイミオ チェア」は、フィンランドで入手しやすいバーチ(樺)材を使い、木材曲げ加工の技術を使っている。それまでの椅子はスチール素材のものが多かったが、木にすることで患者に負担がかからず、また背もたれの角度は腰をかけた時に呼吸が楽になるように配慮されている。サナトリウムはアルヴァ・アアルトが建築家としての名声を得るとともに、デザイナーとしての2人を一躍有名にした。
1935年、インテリアデザインを手がける会社アルテックを設立。初代アートディレクターを務めたのがアイノだった。当時の最先端の技術を使ったアアルト家具をはじめ、シンプルで実用的なグラスウェアなどの販売を開始している。
そして会場内には1939年ニューヨーク万国博覧会でのフィンランド館の一部を再現。アアルトの特徴である緩やかな曲線が木で表現されており、彼らに対する国際的な評価をさらに高めるきっかけとなった作品である。
兵庫県立美術館の飯尾由貴子学芸員は「女性が活躍することが難しい時代に大きな功績を残したアイノは1949年に亡くなる。それまでの25年間、アルヴァ・アアルトは数多くの作品を残した。その仕事の多くは『2人』の仕事だった。2人の功績をみてほしい」と話す。
◆兵庫県立美術館 特別展「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランドー建築・デザインの神話」
会期 2021年7月10日(土)~8月29日(日)
会場 兵庫県立美術館 企画展示室
休館日 月曜(ただし8月9日《月・振休》は開館、翌10日《火》は休館)
【兵庫県立美術館 HP】